「顕著だったのが採用活動への効果」(有川氏)だった。2019年、2020年と採用できなかったのが、ロボット導入後の2021年、2022年、2023年と3年間でキャリア2人、新卒5人の計7人の採用に成功。工場見学でロボットを見て関心を示し、そのまま入社して担当者になったり、新しい取り組みを魅力に感じて入社を決めた社員もいる。
高付加価値工程への配置転換も進み、金型技術部で3人を増員できた他、デジタライズ事業などの新事業も始めることができた。「新しい取り組みを評価していただき、従来よりも引き合いが大きく増えている。注文が増えた場合も、そのための人材確保ではなく自動化で対応するという切り札を手にすることができた」(有川氏)。
これらの自動化による成果を広げていくため、取り組みを公開することに決めた。小人の靴屋という名前は、年老いた靴屋が寝ている間に小人たちが靴を作り上げたグリム童話に協働ロボットによる自動化を重ね合わせた。
展示施設とはいっても、工場の一部であり、実際に稼働している現場でもある。展示施設の役割は大きく3つある。1つ目は自動化の学び舎としての機能。有川氏は「何ができるかよりも、どうやってできるかという情報を主に発信していくことで、多くの企業に自動化に着手しようと思っていただければ」と語る。
2つ目はイノベーションだ。「自動化システムを作りたかっただけだったのにこのように展示するまでになった。他社とのコミュニケーションの中から新たなイノベーションが生まれまる。展示場を企業間がつながるコミュニティーの場として活用し、さらなるシナジー効果を図る」(有川氏)。
3つ目は展示場を多くの人に開放することでモノづくりの魅力を発信していくこと。当面は、有川製作所のWebサイトで見学を受け付け、見学した企業を中心としたイベントの定期開催も計画している。高校生向けの授業も行う予定となっている。
今回、自動化の技術検証やエンジニアのトレーニング、立ち上げ支援を行った山崎電機 代表取締役社長の山崎聡史氏は「ロボットが生産現場で効果を発揮していくためには導入後に継続的な改善を積み重ねていくことが重要だ。有川製作所はそれをうまく解決した」と評価する。
せっかくロボットを導入してもしばらくすると使われなくなったり、放置されていたりする現場も多い。その中で、有川製作所はロボットエンジニアを自社で育成した。
山崎氏は「有川社長の強い積極性と社員との信頼関係が大きな推進力となって、新しい人材を育成しながら、生産性の向上を進めていく取り組みがスタートした。この取り組みを通して、われわれがロボットの導入がもたらす大きな効果を有川製作所に教えてもらった」と語る。
オムロン 営業本部長の伊達勇城氏は「今回のプロジェクトを通してわれわれも本当に学ばせていただいた。ハードとソフトを組み合わせてパッケージング化し、他の企業により簡単に導入できるようにしたい。われわれの制御技術などを掛け合わせて、全国に展開して多くの中小企業が抱えるモノづくり課題、悩みの解消に貢献していきたい」と話す。
オムロンでは今後、全国に7つある支店の管轄域内に1つずつ、小人の靴屋同様の事例構築を目指す。オムロンの自動化技術を体感できるAUTOMATION CENTERは東京と滋賀に設けているが、伊達氏は「リアルなモノづくりの現場ではないため、実際に企業がどんな使い方をしているのかまでは分からない。こういう場を広げていくことで、中小企業が納得して投資まで決断いただける情報を提供でき、われわれも新しい学びを得ることができる」と意義を語る。
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