近畿大学、第一セラモ、エス.ラボ、島津産機システムズは、「国産MEX方式金属AM(付加製造)普及プロジェクト」の中間報告で、エス.ラボが100万円台のMEX方式金属3Dプリンタとしてフィラメント式の「Margherita」を2023年に発売し、第一セラモが「巻けるコンパウンド」として柔軟性に優れたフィラメントを開発したことを発表した。
近畿大学、第一セラモ、エス.ラボ、島津産機システムズは2023年7月7日、京都市中京区の会場とオンラインで記者会見を開き、「国産MEX方式金属AM(付加製造)普及プロジェクト」として、「MEX方式の金属3Dプリンタ技術の純国産化」を目的に共同研究を進める材料押し出し積層(MEX:Material EXtrusion/FDMやFFFと呼ばれる材料溶融積層と同義)方式造形のシステム化について中間報告を行った。
MEX方式の金属3Dプリンタは、ノズルあるいはオリフィスから材料を押し出し、選択的に供給するプロセスが採用されており、AM技術に分類される。工程は、ペレットあるいはフィラメントの投入、成形(半溶融材料の押し出し積層)、脱脂/焼結、後工程の順に行い、樹脂の3Dプリンタ感覚で使え、成形物は表面粗度が良好で、小型の単純形状部品の造形に適している。専用の脱脂/焼結装置も必要となる。
なお、MEX方式金属3Dプリンタの世界シェアの大半は米国のMarkforged(マークフォージド)や、2023年5月にStratasysとの合併を発表したDesktop Metal(デスクトップメタル)が占めているという。
国産MEX方式金属AM普及プロジェクトで評価/指導を務める近畿大学次世代基盤技術研究所 特任教授の京極秀樹氏は「金属粉末射出成形(MIM)方式は金型が必要だが、MEX方式は金型が不要でMIMより大型の製品を作製できる。さらに、結合剤噴射(BJT)方式と異なり、粉末床を必要としないので、取り扱いやすい。MIMおよびBJTと比較して微細形状を成形しにくいが、内部構造(ラティス構造など)を作れる。加えて、大量生産向きではないが、他の方式と比べMEX方式の金属3Dプリンタは安価なため中小企業でも導入しやすい」と利点を話す。
こういったメリットを踏まえて、近畿大学、第一セラモ、エス.ラボ、島津産機システムズから成る「純国産連合」は、各拠点に装置/部材を設置して効率的に研究を進め、材料の最適な処理条件の探求や材料、3Dプリンタ、脱脂/焼結装置の改良に取り組むことで、国内で普及しやすいMEX方式造形のシステム化を図っている。これにより、専門知識がなくても容易に金属3D造形品を生産できるノウハウの確立を推進している。
MEX方式造形のシステム化では、コンパウンドを利用したペレットに対応する3Dプリンタで材質の多様化に応じ、金属、セラミックスなどマルチマテリアルの造形を可能とすることを目指している。さらに、高性能脱バインダー/焼結炉の開発による製品の高品質化や海外製の3Dプリンタでは対応できない独自の造形システム(国産MEX方式造形システム)の確立、粉末床溶融結合(PBF)、指向性エネルギー堆積(DED)、BJT方式の3Dプリンタに比べて安価で、中小企業でも導入しやすい機種の開発も目標に掲げた。
MEX方式造形のシステム化の開発でポイントとなっているのは、「溶媒脱脂不要なバインダー設計」、成形物の欠陥をゼロとする「ノズルの制御(温度、ノズル制御技術)」、脱脂工程におけるバインダーの除去パターンやバインダーの残渣で生じる炭素を制御する「各材料の脱脂パターンの確立」、焼結工程で組織制御を行う「各材料の焼結パターンの確立」だという。これらのポイントを考慮し、純国産連合の参加企業は担当する領域の研究/開発を行っている。
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