ニデックとルネサス エレクトロニクスがEV(電気自動車)向けE-Axleの半導体ソリューションにおける協業の狙いについて説明。EVの急速な市場拡大によって起きている、さまざまな電動化システムを一体化した「X-in-1システム」の需要の高まりと開発競争の激化に対応する。
ニデックとルネサス エレクトロニクスは2023年6月6日、ニデック新川崎テクノロジーセンター(川崎市幸区)で会見を開き、同月5日に発表したEV(電気自動車)向けE-Axleの半導体ソリューションにおける協業の狙いについて説明した。中国を中心とするEVの急速な市場拡大によって、モーターやインバーターだけでなくさまざまな電動化システムを一体化した「X-in-1システム」の需要が高まるとともに競争が激化していることに対応するため、ニデックが有するE-Axleの知見と、ルネサスの広範な電動システム向け半導体ポートフォリオを組み合わせてX-in-1システムのPoC(概念実証)を開発し、新たな将来技術の創出を目指す。
今回の協業では、第1弾として、2023年末までにモーター、インバーター、ギヤに加え、DC-DCコンバーター、OBC(車載充電器)、PDU(電力分配ユニット)を搭載した6-in-1システムのPoCを開発する。2024年には、第2弾として、BMS(バッテリーマネジメントシステム)なども統合してさらに集積度を高めたX-in-1システムのPoCを開発する予定である。第1弾のPoCでは、パワーデバイスとしてインバーターにSiC(シリコンカーバイド)を搭載し、続く第2弾では、DC-DCコンバーターやOBCのパワーデバイスを高周波動作が得意なGaN(窒化ガリウム)に置き換えてさらなる小型化と低コスト化を図るとしている。
会見には、ニデック 常務執行役員 副最高技術責任者 兼 半導体ソリューションセンター所長の大村隆司氏と、ルネサス エレクトロニクス 執行役員 兼 ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ 共同ジェネラルマネージャーのヴィヴェック・バーン(Vivek Vhan)氏が登壇した。
大村氏が会見の冒頭で強調したのは、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)だけにとどまらない自動車業界の大変革、中国を中心としたEV市場の急拡大とそれに伴う変化、X-in-1システムに求められている急速な進化についてである。
まず、CASEにとどまらない自動車業界の大変革としては、環境対策に代表される「地球規模の課題の変化」、テスラ(Tesla)やBYDのようなディスラプターの参入による「自動車業界構造の変化」、コロナ禍による行動様式の変化や若年層のクルマ離れに象徴される「『モノからコトへ』の変化」、そして米中経済摩擦やロシアによるウクライナ侵攻に端を発した「地政学リスクの変化」の4つを挙げた。大村氏は「これらCASEを取り巻く外部環境における4つの変化に追従できないと淘汰されてしまう」と語る。
ニデックのE-Axleが主戦場とする中国のEV市場は急速に拡大している。2021年の自動車出荷台数のうちEVが8〜9%を占めるようになり、その51%を中国市場が占めるようになっている。その要因としては、手厚いEV購入補助金や中国政府による新エネルギー車(NEV)比率の高い目標などがあるが「中国政府は独自の規格となるGB32960を策定するなど、国主導でクルマをIoT(モノのインターネット)としていく方針を打ち出している。このため、他国ではプライバシーやセキュリティという制限によってできないことがやれてしまう。このこととEVの急速な市場拡大は大きな関連がある」(大村氏)という。
さらに、EVでは車両構造がシンプルになり、内燃機関車と比べて必要な部品の数量が減少するのでモノづくりのハードルが下がる。内燃機関車の部品点数は約3万点で、エンジンやトランスミッションなどを中心に組み立てですり合わせが重要になるが、EVは部品点数が約2万点に減って組み立てが容易になり新規参入もしやすくなる。大村氏は「ファーウェイ(Huawei)のような通信事業者がEV向けのX-in-1システムにプラットフォーマーとして新規参入を目指すようになっている」と説明する。
X-in-1システムについては、モーターやインバーターなどの個別機能ごとのユニットを組み合わせて構成していた1-in-1ともいえる第1世代から、足元はモーターと変速機、インバーター、DC-DCコンバーターとOBC、PDUをそれぞれ3-in-1システムとして一体化して組み合わせる第2世代に移行している。そして2024年以降は、これら6つのシステムとビークルコンピュータとも呼ばれるVCU(車両集中制御ユニット)を統合したオールインワンのX-in-1システムの登場が想定されている。「これによって部品点数削減と部品共通化によるプラットフォーム化が可能になり、開発効率と車種展開の容易性を高められる。日本では全く話題になっていないが、中国、そして欧州や米国を視野に入れた場合には極めて重要なトレンドになる」(大村氏)。
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