AMを実製品に活用するためには何から取り組めばいいのか金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか(2)(2/2 ページ)

» 2023年06月02日 11時00分 公開
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品質保証リスクの大きい部品(駆動部品、高安全性部品)以外でのAM活用

 海外では航空機エンジン部品や自動車部品でのAM実製品事例が多く見られますが、駆動部品でAMを活用する場合は、各種試験や品質保証などの実証確認事項が多岐にわたります。

 AM実製品活用の経験や事例がない国内において、これらのハードルを越えてAM実用するには、膨大な時間と費用を必要とします。しかし駆動部品以外でのAM活用は、実証確認ハードルが低くなるのではないでしょうか。

 実際に数少ない国内事例や、AM実製品開発研究テーマにおいてその傾向が見られます。その事例の1つが熱交換器です。熱交換器は複雑一体化の構造設計をすることで、効率向上、納期短縮、小型化を実現でき、その特徴こそAM活用のメリットになります。また、組み立てやロウ付け溶接などによる品質上のリスクを、AMの一体造形で解決できると考えます。

AMによる熱交換機の事例 AMによる熱交換機の事例[クリックで拡大]出所:日本AM協会

 しかし、これらの用途でのAM実製品活用が簡単にできる訳ではありません。AM用材料変更での品質検査確認や、精度が必要な部分への後加工(ポストプロセス)技術の取得など、ハードルは幾つもあります。それでもAM実製品活用の近道のためには、駆動部品や高安全性部品以外を初期段階では選択することをお勧めします。

設計変更が必要ない用途でのAM活用

 現工法での製品設計をAM用に設計変更して、活用メリットを出せるようにするのは容易ではありません。最終的なゴールはAM用に設計した実製品ですが、それには品質保証も含めて長い時間を要します。それまでの間に少しでもAM実製品の事例(経験)を得るのであれば、現設計形状製品の補修や耐摩耗対策異種金属コーティングや保守品製造用途でのAM活用をお勧めします。

人手による溶接肉盛り補修からの置き換え

 補修用途や異種金属コーティング用途では、人手による耐摩耗対策の異種金属肉盛り溶接から、DED(Directed Energy Deposition)方式の金属AM装置に置き換えを行うことが可能です。

肉盛り補修、異種金属コーティング用途でのAM活用メリット 肉盛り補修、異種金属コーティング用途でのAM活用メリット[クリックで拡大]出所:日本AM協会

 既に人手による溶接でできているとは言っても、熟練した技術が必要で人材に限りがあるのは明白です。人手による作業では、作業(品質)のバラツキなどのリスクも発生します。またロボットによる溶接肉盛りを行っている場合においては、パワー(入熱)が大きいロボット溶接で発生する熱ひずみ対策のための工程が多くなります。

 熱ひずみ対策が必要な薄い基材への肉盛り作業において、レーザーパワーの小さいマルチレーザーヘッドDED装置を使用すれば、熱歪を軽減したAM加工が可能です。

肉盛り補修、異種金属コーティング用途での事例 肉盛り補修、異種金属コーティング用途での事例[クリックで拡大]出所:日本AM協会

 保守部品においてAM活用は、型なし在庫レスを可能にすることを多くの方がご存じの通りです。しかしこれら用途でのAM活用においても、簡単にAMが代替できる訳ではありません。AM用材料へ変更に伴う品質検査確認や、精度が必要な部分への後加工(ポストプロセス)技術の取得など、ハードルはいくつもあります。

 それでも、形状設計変更が不要な用途でのAM活用は、実製品でのAM活用技術(経験)を向上させるのには、形状設計変更を伴うAM活用よりは近道なのではないでしょうか。

 次回は、AM活用の知見が高まり、いよいよAM実製品に取り組む際に、先行している海外に対抗するすべについて記します。


著者紹介:

一般社団法人日本AM協会 専務理事

澤越 俊幸(さわこし としゆき)

近畿大学理工学部経営工学科卒業後、1985年に立花商会(現:立花エレテック)へ入社し、制御、映像、特殊端末などの各種システム販売を担当する。2013年にAM(3Dプリンタ)販売担当になると、2014年に任意団体「3Dものづくり普及促進会」発足し、事務局を担当。2022年に3Dものづくり普及促進会を一般社団法人日本AM協会に移行し、現在に至る。



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