現在、自動車の車載システムは、ボディー系やシャシー系、インフォテインメント系、ADAS系といったシステム領域ごとにECUを割り当てるドメインアーキテクチャを取っているのが一般的だ。ただしこれからは、各システム領域の統合制御を担うセントラルECUの利用が広がり、このセントラルECUの比重を高めてセントラルカーコンピュータの時代に向かうとみられている。最終的には1個の「フルカーコンピュータ」によって自動車全体の制御を行うことも検討されている。このトレンドはECUというハードウェアではなく、ソフトウェアによって自動車の機能が定義されることから、ソフトウェア定義型車両(SDV:Software Defined Vehicle)と呼ばれている。
このSDVで用いられるセントラルECUやセントラルカーコンピュータ、フルカーコンピュータのつかさどるプロセッサはリアルタイム処理が可能なリアルタイムプロセッサでなければならない。これは、自動車の走る、止まる、曲がるといった操作入力を遅延なく制御に反映するためだ。
そこで問題になるのが、SDVに対応可能な性能向上のためにリアルタイムプロセッサの微細化を進めると、これまで用いてきた内蔵フラッシュを利用できなくなることだ。クリシュネゴウダ氏は「マルチコア化などを含めたプロセッサの性能向上に合わせて5nm、7nmというレベルの微細化を進めると、現状の内蔵フラッシュ技術では対応できない」と説明する。
従来のリアルタイムプロセッサでは、内蔵フラッシュと外付けの拡張メモリとなるNORフラシュメモリで対応してきたが、SDV時代のリアルタイムプロセッサは外付けメモリだけで対応しなければならなくなる。しかし、現行のNORフラッシュメモリ製品に用いられているSPIインタフェースではデータ転送速度やランダム読み出し速度が不足する。「そこで、より高速なインタフェースであるLPDDR4を採用したSEMPER X1を開発した」(クリシュネゴウダ氏)という。
SPIインタフェースはシリアルバスであり動作周波数も最大200MHzにとどまる。また、cmd/add/dataバスを多重化して使用しているため、パイプライン化できず待ち時間が長い。これに対してLPDDR4インタフェースは、GHzレベルとなる2133MHz以上の周波数で動作可能で、cmd/addバスとdataバスを分割してパイプライン化できるので遅延が少ない。転送速度は、SPIインタフェースの800MB/sに対して、SEMPER X1では8倍となる6400MB/sを実現している。
また、メモリセルからの高速読み出しを可能にするeCT技術との組み合わせにより、シングルリードオペレーションで従来比5倍、ランダムリードトランザクションで同20倍を実現した。消費電力も、転送速度が8倍になったことで8分の1に低減できている。
さらに、LPDDR4 DRAMと比較した場合でも、トレーニング時間やランダムリードトランザクション、データバス効率でSEMPER X1に優位性があるという。
SEMPER X1の品種は、メモリ容量別で240Mビット、288Mビット、576Mビット(288Mビット×2)などをそろえている。
なお、NORフラッシュメモリ向けのLPDDR4インタフェースは今後、半導体関連の規格策定を担うJEDECで標準化作業が進められる予定だ。SEMPER X1と接続が可能なLPDDR4インタフェースリアルタイムプロセッサについても、NXPセミコンダクターズが「S32Z」「S32E」を発表しており、今後SDV時代に対応した車載システムの開発に向けた体制は整いつつある。
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