ここで、あらためて日本の製造業に今後求められる考え方について、過去のビジネスアプローチとこれからのビジネスアプローチの違いを通じて紹介したい。
変化が大きくなく目指すべき「正解」が存在していた時代では、従来の既存事業や技術の延長線に位置するビジネスアプローチの中でいかに効率よく展開するかが重要だった。しかし、社会や技術、顧客価値、競争環境の変化のスピードが速くなり、ビジネスそのものの枠組みが大きく変わろうとしている現在では、従来型のビジネスアプローチでは、変化を捉えきれず新たなイノベーションに対して対応が後手に回ってしまう。その歪が生まれているのが現在の状況だ。
インダストリー5.0時代となり日本企業の強みや提供できる価値をあらためて見つめ直す必要が出てきている中で、重要になっているのが「価値」と「エコシステム」に基軸を置いた事業検討だ。
従来型の既存事業の延長線上を中心とした考え方ではどうしても自社の技術や機能に軸足を置いたプロダクトアウト型となっていた。これから必要になるのは、一歩俯瞰し、社会や環境、顧客価値からビジネスの姿を導出していくことだ。「何が既存事業や技術の中でできるのか」ではなく、「どんな世界や社会を、誰と創っていきたいのか」といった価値を軸とした「問い(課題設定)」を重要視したアプローチである。
「将来の目指したい世界」とそこに向けたアプローチをベースに考えると、自社のリソースだけでなく、価値を最大化できるグローバルでの仲間作りやエコシステム作りを行う発想につながる。それを通じて市場創出や価値、構造変化を生み出すのだ。インダストリー5.0をはじめとし、価値観が大きく変化する中では、従来の顧客価値や経済価値とともに、社会、環境価値、人間価値との両立が重要となる。既存コンセプトの追従ではなく、日本や自社としての自らの「価値」をデザインし、アジアをはじめグローバルでの仲間作りを行い、価値訴求を先行して行うことが求められる。
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