「サイズ1000分の1、コスト50分の1」のNIR分光センサー、オランダ新興企業が開発ハノーバーメッセ2023

世界最大級の産業見本市「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ)」において、オランダのMantiSpectraが開発した小型近赤外線(NIR)分光センサー「ChipSense」が、優れたスタートアップを表彰する「HERMES Startup AWARD 2023」を受賞した。

» 2023年05月09日 08時30分 公開
[永山準MONOist]

 世界最大級の産業見本市「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ)」(2023年4月17〜21日)において、オランダのMantiSpectraが開発した小型近赤外線(NIR)分光センサー「ChipSense」が、優れたスタートアップを表彰する「HERMES Startup AWARD(ヘルメススタートアップアワード)2023」を受賞した。同社は、同製品によって、「一般的な既存品と比べ1000分の1のサイズかつ最大50分の1のコストで素材センサーを実現できる」と説明している。

小型近赤外線(NIR)分光センサー「ChipSense」[クリックで拡大] 小型近赤外線(NIR)分光センサー「ChipSense」[クリックで拡大]

≫ハノーバーメッセ2023特集はこちら

 ハノーバーメッセが開催する「HERMES Startup AWARD」は、毎年ハノーバーメッセの開会式で発表される技術賞だ。同賞は、創業5年以内のスタートアップ企業の中から、特に高度な技術革新を示す優れた製品やソリューションが選出される。

堅牢かつ製造が容易な、超小型センサー

 今回選出されたMantiSpectraは、2020年に創業したオランダ・アイントホーフェン工科大学発のスタートアップ。同社のコア技術であるChipSenseは、850n〜1700nmのNIR領域に選択的な波長をもつ共振空洞増強(RCE)光検出器をベースとした小型NIRセンサーだ。

 同センサーは、16個のピクセルによるマルチピクセルアレイで構成、各ピクセルはそれぞれが850n〜1700nmの波長域で異なる分光感度特性を持ち、高いS/N比も実現している。1度の測定で850n〜1700nmの全てのスペクトル情報を取得でき、「分析対象の材料固有の『近赤外指紋』を得られる」という。この情報と機械学習の組み合わせによって、分類や数値化のためのトレーニングが実施できるとしている。

ChipSenseによるソリューションについて[クリックで拡大] 出所:MantiSpectra ChipSenseによるソリューションについて[クリックで拡大] 出所:MantiSpectra

 また、既存のMEMSベースのソリューションのような可動部品も一切含まないことから、堅牢かつ製造も容易となっている。サイズは1mm角と、「一般的な既存システムと比較し1000分の1の小型化」(説明担当者)を実現する。また、接着剤によるウエハーボンディングによってシリコンウェハー上に統合する製造プロセスを採用したことで、安価な量産が可能となっていて、「既存システムと比較し、最大50分の1の低コストで大量生産が可能だ。最終的にはセンサーの価格を10ユーロ以下にまで下げ、コンシューマー市場での大規模な導入を実現したい」(同)としている。

ChipSenseと既存技術との比較[クリックで拡大] 出所:MantiSpectra ChipSenseと既存技術との比較[クリックで拡大] 出所:MantiSpectra

 説明担当者は、「ChipSenseの最大の市場は、コンシューマー機器になるだろう。スマート家電はもちろん、堅牢性や低コスト、小型といったメリットから将来的にはスマートフォンやウェアラブル機器などへの搭載も考えられる。もちろん、物質の組成を測定したいケースなら産業界のどこでも使用が可能となる」と強調していた。下図は、アプリケーション例とその精度だ。

穀物中のリアルタイム水分センシング牛乳の脂肪分センシングコーヒーの産地や焙煎、味の違いに関する分類 アプリケーション例。左から、「穀物中のリアルタイム水分センシング」「牛乳の脂肪分のセンシング」「コーヒーの産地や焙煎、味の違いに関する分類」[クリックで拡大] 出所:MantiSpectra
プラスチックのリサイクル種別の分類違法ドラッグの分類燃料内の不純物測定 アプリケーション例。左から、「プラスチックのリサイクル種別の分類」「違法ドラッグの分類」「燃料内の不純物測定」[クリックで拡大] 出所:MantiSpectra

 今回、同社はブースにおいて、プラスチックのリサイクル種別分類のデモを展示していた。PP(ポリプロピレン)やHDPE(高密度ポリエチレン)などの素材をChipSense搭載デバイスの上に置き測定を行うと、アプリ上で測定値に応じたリサイクル種別の数字(PPは「5」)が表示された。

ChipSenseのデモ[クリックで再生]

 同社はカスタマイズ可能なChipSense搭載のセンシングモジュールや、照明システムやデータ収集ソフトウェアなど必要な機能を統合した開発キット、クラウドプラットフォームを提供する。

≫ハノーバーメッセ2023特集はこちら

≫「組み込み開発ニュース」のバックナンバー

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.