製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。引き続き“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識”として「かたち」をテーマに取り上げる。今回は「かたちの対応付け」についてだ。
前回および前々回で、設計者が学ぶべきかたちに関する3つのデザイン基礎知識のうち「かたちの比率」「かたちの種類」について解説しました。今回は、3つ目となる「かたちの対応付け」について解説します。
「対応付け」という言葉は数学の専門用語であり、2つの集合の中の要素同士の関係性を意味します。デザインにおける対応付けも同様に要素同士の関係性を意味するものであり、操作部や表示部のレイアウトにおいて、どの機能をどの位置に置くかなどを検討する際に重要な概念です。
これまで解説してきた2つの基礎知識(かたちの比率、かたちの種類)は、主に製品の意匠性を高めるために役立つものでしたが、今回解説するかたちの対応付けは意匠だけではなく、使いやすさや安全性を高めるために有効な知識であり、工業製品開発全般においては特に重要な知識です。たとえ意匠性が問われない製品でも、対応付けだけは考慮すべきです。
手元にある製品がどのような対応付けをされているかなど考えてみながら読み進めてみてください。
早速ですが、あなたは自宅部屋の壁にある照明スイッチの上と下、どちらが廊下の照明をつけるスイッチで、どちらが玄関の照明をつけるスイッチか記憶しているでしょうか。ぱっと思い出せる人は少ないのではないでしょうか。ましてやそれが初めて来た部屋だった場合、どのようにスイッチと照明の関係性を理解できるでしょうか。
かたちの対応付けとは、このスイッチの関係性を決めることを指します。部屋のスイッチ以外にも、例えば“ハンドルを右に回すとクルマが右に曲がる”“マウスを動かすと画面内のポインターが追従する”“スマホの横のスイッチを押すと音量を調節できる”なども対応付けによるものです。
普段は無意識に製品を使うことが多いかもしれませんが、スイッチなどのインタフェースを持つ全ての製品には何らかの対応付けがされています。かたちの対応付けの知識を使いこなすことができれば、設計者は製品の使いやすさや安全性を飛躍的に向上させることができます。
対応付けを考える際にはまず「概念モデル」を理解する必要があります。
概念モデルとは“あるものがどう動くかについての説明”を意味します。
例えば、製品の説明書には製品のどこをどう操作したら、どう動くかという説明が記載されていますが、これも概念モデルです。一方、説明書を読まない人は、自身の経験に基づき、この製品はこういう操作をしたらこう動くであろうと想像しながら製品を使用しますが、このとき、その人の頭の中で想像しているものも概念モデルです。特にこれを「メンタルモデル」といい、説明書に記載されている概念モデルよりも簡素である場合がほとんどです。
そして、全ての人が製品の説明書を読むわけではない現状に鑑みると、デザインの観点で重要なのは後者のメンタルモデルであり、利用者の頭の中にある簡素な概念モデルです。そして、対応付けの良しあしは、いかに製品それ自身が持つ概念モデルが、多くの人のメンタルモデルに適合できているかで測ることが可能です。
前述の部屋のスイッチの話に戻ります。例えば、図2のようなレイアウトの部屋に図のようなスイッチがあるとしたら、廊下の電気をつけたければ迷わず右のスイッチを押すのではないでしょうか。これは“それぞれのスイッチが空間の位置関係と同じである”という人が持つ概念モデルによるものです。従って、設計者は右のスイッチを廊下の照明、左のスイッチを玄関の照明に対応付けするのが正解となります。
ここで説明したケースは非常にシンプルなものでしたが、実際の開発現場では「スイッチを横並びにできない」などの技術的な制約があり、必ずしもあるべきかたちとその対応付けを作れるわけではないということも認識しなくてはいけません。
また、全ての人が同じメンタルモデルを持っているわけではないので、誰かにとって使いやすい対応付けが、他の誰かにとっては使いにくい対応付けである可能性も加味する必要があります。
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