トヨタ自動車は新体制での経営方針を発表した。社長に就任した佐藤恒治氏、副社長の中嶋裕樹氏と宮崎洋一氏が出席し、電動化の計画や「モビリティカンパニー」を目指す変革などについて説明した。
トヨタ自動車は2023年4月7日、東京都内で会見を開き、新体制の経営方針を発表した。同月1日付で社長に就任した佐藤恒治氏、副社長の中嶋裕樹氏と宮崎洋一氏が出席し、電動化の計画や「モビリティカンパニー」を目指す変革などについて説明した。
EV(電気自動車)については、2030年までに商用車と乗用車で30車種を展開することと、年間グローバル販売台数を350万台とする目標を2021年末に発表していた。今回発表した電動化の計画は2030年までの目標を維持しながら、より具体的な戦略を示した格好だ。
具体的には、2026年までにEV10車種を新規導入し、年間150万台の販売を目指す。また、2026年に次世代EVを導入することも明らかにした。電池の効率的な利用により満充電からの走行距離を2倍に増やす他、ソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」も採用する。
トヨタ生産方式を活用しながら開発や生産の工程を半分にするなど、仕事の進め方も変える。コネクテッド技術による無人搬送や、自律走行検査などで効率的なラインを実現する。仕入れ先と一体となって、サプライチェーンの構築や良品廉価な部品調達も進める。HEV(ハイブリッド車)でノウハウを蓄積した既存の仕入先と関係を強化するとともに、EV専用の部品は広くオープンに新たな関係を構築する。また、内燃機関で取引のある仕入先とは、トヨタ自動車も参加して技術や経験をどう生かせるかを検討していく。
これらに対応するEVの専任組織が2023年5月に発足する。全権を持ったリーダーの下で開発から生産、事業まで担当する。トヨタ自動車は2016年に社長直轄のEV事業企画室を設置。2018年11月からはEVを含むZEV(ゼロエミッションビークル)の商品開発や事業企画は専門組織のZEVファクトリーが担当しており、パートナーの自動車メーカーやサプライヤー、自治体などからの出向者もZEVファクトリーに参加している。
新設する専任組織は、「新たなEVの世界やワクワクドキドキする商品」(副社長の中嶋氏)の提供を目指して、しがらみを断って全く新しいことにチャレンジすることを目的としている。
EVの「bZ4X」の開発を振り返って、社長の佐藤氏は「EVにはこれまでのノウハウが生きる部分と、全く違う部分がある。これまでは内燃機関の改善の寄与度が大きかったが、EVはクルマの性能を高めるための勘所が違う。そこを原点にしながらクルマを作る必要がある。空力や振動、ドライバビリティ、電池や電流のマネジメントをもっと深掘りする必要があった。それを踏まえてアーキテクチャを組み直す。ビジネスモデルを捉えた構造改革も必要だ。単体でEVを作るのではなく、取り巻くサプライチェーンや販売などを踏まえる必要がある。bZ4Xではもっと取り組む余地があった。bZシリーズはそのままにしない。ユニットや制御は日々改善を続けている。手を止めずに精力的に性能を向上させていく」と述べた。
市場に合わせて全方位でCO2排出削減に取り組む「マルチパスウェイ」は今後も維持する。その中で、PHEV(プラグインハイブリッド車)はモーターのみで走行できるEV走行距離200km以上の達成を目指し、実用的なEVと再定義して開発に注力する。HEVは地域のエネルギー事情や使い勝手に寄り添った改善を続ける。販売済みの保有車両は、カーボンニュートラル燃料でのCO2排出削減を目指す。FCV(燃料電池車)の主戦場は商用車となる。また、大型商用車向け水素エンジンの基礎研究もスタートしている。
地域別のEV投入計画も示した。先進国では、性能を向上させた「bZシリーズ」を中心に品ぞろえを大幅に拡充する。米国では、2025年に3列SUVタイプのEVの現地生産を始める。このEVにはノースカロライナ州で生産するバッテリーを搭載する。中国ではbZ4Xや「bZ3」に加え、現地のニーズに合わせた現地開発のEVを2024年に2車種投入する。アジアをはじめとする新興国でのEV需要にも対応する。ピックアップトラックタイプのEVを現地生産する他、小型車タイプのEVも投入する。
市場が成熟する先進国は、エンジン車から電動車への乗り換えが進む。新興国では初めてクルマを購入したり増車したりする中で電動車の市場拡大が見込まれる。新興国の電動車需要には収益性の高いHEVで対応し、「稼ぐ源泉」としていく。
初代「プリウス」以降、電動車を累計で2250万台を販売し、EV約750万台に相当するCO2排出削減を達成した。この中でHEVは性能と原価に磨きをかけてきた。ハイブリッドシステムの原価は当初の6分の1まで低減し、ガソリン車と遜色ない利益が出せるようになったとしている。
電動車の展開に当たって、地域貢献や産業報国にも力を入れる。自動車産業の採用難や構造的なコスト増に直面している米国に向けては、匠の技能と知能化を組み合わせた新しいモノづくりや自働化工程を提案していく。「人手不足を解決しながら米国にモノづくりを残す恩返しができるのではないか」(副社長の宮崎氏)
また、タイでは現地企業との協業で物流向けの電動車の導入やコネクテッド技術による効率化に取り組む。モビリティを社会インフラの一部として活用し、深刻な渋滞や大気汚染、交通事故などの解決に挑戦する。
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