連載第10回は「PDMシステムへのデータ移行作業をスムーズに行い、正しいデータを登録する方法」をテーマに、PDMシステムへのデータ移行におけるポイント、その際の留意点などについて解説する。
PDM(Product Data Management/製品情報管理)システムの初めての運用に向けて、これまでフォルダ管理で保存されていたデータを、PDMシステムへ移行する必要があります。この作業は“正しいデータ”を共通データベース上に保存するという意味でとても重要です。
しかし、実際にフォルダからPDMシステムへのデータ移行作業を行ってみると、予期せぬエラーに直面することがあります。実はその原因のほとんどが、PDMシステムの導入以前に行われてきた3D CADデータの保存管理上の問題によるものです。
今回は、いつもとはスタイルを変えて、架空の会社X社で働くAさんの取り組みを追いながら「PDMシステムへのデータ移行作業をスムーズに行い、正しいデータを登録する方法」について考えてみたいと思います。
まずは、X社における3D CADデータの保存管理上の問題点について見てみましょう。
■X社における3D CADデータの保存管理上の問題点
(1)X社の設計現場では、組み立て製造時に製造現場から呼ばれた際、部品修正のための追加工や新規部品を手配するための2D図面について、修正前の図面に直接手描きで修正を加えて対応してしまうことが多い。そして、忙しさのあまりCAD上での3D図面/2D図面の修正を怠ってしまい、リピート品の受注があっても間違った図面(修正前の図面)を出図してしまうことが多く、製造現場からのクレームも頻繁にある
(2)X社の設計現場は、ユーザー向けに個別カスタマイズを行うことを得意としているが、最初に設計したものから、ユーザーごと、号機ごとに少しずつ設計変更を繰り返すことが多い。また、複数の設計者が担当になることがほとんどで、流用設計の際に参照する先が設計者によって異なり、最新の設計を参照できていないこともある
(3)納入後に装置改造を行うことも多いが、対象製番装置を見誤り、うまく改造できないことが頻繁に発生している
■目指したい姿
3D図面に戻っての改訂し忘れや、個人の記憶(経験)に頼って設計を進めてしまうことなどに起因する不具合の発生は、筆者にも経験があります。こうした事態を回避するには、例えば、改訂指示とその確認を行うための帳票による運用や、調達部門においても手描き図面を受け取らないなどのルールの徹底、工夫が必要になります。
ユニット設計についても、基本仕様部分とカスタマイズ部分を別ユニット化するなど、分かりやすいユニット構成になるよう工夫するとともに、やはりデータ管理の観点からもPDMシステムを導入することでの改善アプローチは有効だと筆者は考えます。
X社では、社内合理化推進を行うAさんの提案により、PDMシステムの導入を決めました。これで前述したような3D CADデータの保存管理上の問題点の改善を図りたい考えです。
PDM推進プロジェクト担当者に抜てきされたAさんは、「導入フェーズ」として評価用の3Dアセンブリ、3Dパーツ、2Dアセンブリ、2Dパーツを作成して、PDMシステムの機能評価を実施することにしました。
評価用データをPDMシステムに登録して評価を行った結果、Aさんは現場が直面している課題の解決に十分対応できることを確認。早速、その評価結果をまとめて設計部内に報告したところ、これまでデータを保存していたフォルダ管理から、PDMシステムへのデータ移行を試験的に開始する「立ち上げ(サービス開始)フェーズ」に移行することとなりました。
ここで簡単に、Aさんのプロフィールと設計部門の状況について確認しておきましょう。
■Aさんのプロフィール紹介
■設計部門の状況
PDMシステムへのデータ移行を試験的に開始することになったAさんは、データ移行の方法について検討を始めます。
さて、これまでのX社の状況や直面する課題を見ていると、このまま順調にPDMシステムへのデータ移行がうまくいくのか少々心配です。どうなることでしょうか?
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