設備は自由に使って良し! 山形の板金屋さんが「放課後工房」を始めたワケワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(1)(1/3 ページ)

本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は板金加工を手掛ける山形県のみよし工業に取材しました。

» 2023年02月22日 08時00分 公開

MONOist編集部より

本連載はパブリカが運営するWebメディア「ものづくり新聞」に掲載された記事を、一部編集した上で転載するものです。

ものづくり新聞は全国の中小製造業で働く人に注目し、その魅力を発信する記事を制作しています。ものづくり企業にとって厳しい環境が続く中、伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。


 今回は山形県山形市十文字にある、みよし工業に伺いました。みよし工業はステンレス、チタン、ニッケル合金などの板金加工を行っています。

 みよし工業が製作している製品はオーダー品が多く、ステンレス製のシンクやタンク、洗浄槽など多岐にわたります。ここ数年は自社のWebサイトでも注文を受け付けており、特に銅シンクの注文が増えているといいます。

 抗菌効果があることから、近年、銅のシンクは支持を集めており、中でも銅の「緑青(ろくしょう)」処理を施したアンティーク調なシンクが人気です。インターネットで「銅シンク 製造」と検索すると、みよし工業が検索結果の上位にきています。実際に、銅を加工できるところを探しているなどと問い合わせがあるようです。

銅製のシンク[クリックして拡大] 出所:みよし工業のWebサイトより
緑青処理を施した銅製のシンク[クリックして拡大] 出所:みよし工業のWebサイトより

 今回はみよし工業が取り組む“B2C製品”をテーマに、自社製品プロジェクトリーダーの斎藤いくみ(さいとう いくみ)さんとプロジェクトメンバーの鏡凪沙(かがみ なぎさ)さんにお話を伺いました。

「どこでもいい」から「ここで働きたい」へ

(左から)鏡凪沙さん、斎藤いくみさん 出所:ものづくり新聞

――鏡さんはみよし工業に入社して現在2年目とのことですが、入社のきっかけを教えてください。

鏡さん 大学卒業に当たって就職活動をしている時に、ある合同企業説明会でみよし工業を見つけました。話を聞くと「放課後工房」という活動があることを知り興味を持ちました。

――放課後工房とはどんな活動ですか?

鏡さん やるべき仕事が終わった時や定時後など、会社の機械を自由に使って自分のものづくりに取り組むことができるという活動です。私は溶接でピアスを作ってみたくて興味が湧きました。

斎藤さん これは社長のアイデアで始まったものなんです。

――どういった思いからこのアイデアが生まれたのでしょうか?

斎藤さん ここで働きたいと思ってもらえる会社にしたいという思いからです。それまでも採用活動を行っていましたが、入社しても早い段階で退職に至ってしまうケースが多く、10代後半から20代の従業員がほとんどいませんでした。

 そこで思ったのは、長く働いてもらうためには「どこでもいいから働きたい」ではなく、「みよし工業で働きたい」と感じてもらう必要があるということです。同時にそう思ってもらえるだけの魅力を持たなければいけないと思いました。そのためには会社の環境や姿勢を変える必要があると感じたんです。

好きに作る「放課後工房」で魅力発信

――放課後工房の他にはどのような部分を変えたのでしょうか?

斎藤さん まず採用活動に関しては、鏡さんが入社するまでは大卒者の採用はおこなっていませんでした。給与面や待遇などにおいて前例がなかったのですが、大学生は自分の意志で就職活動をする方が多く、みよし工業で働きたいという人に出会えるかもしれないと大卒の採用に取り組みました。放課後工房などの活動も併せて、みよし工業のことを良いと思ってくれる人に入社してほしいと思っていました。

――そこで出会ったのが鏡さんだったのですね。

斎藤さん 鏡さんは合同企業説明会で一度話をした後に、またブースに立ち寄ってくれました。みよし工業に興味をもってもらえてうれしかったのを覚えています。

鏡さん:仕事自体にも興味がありましたし、自分のアイデアを形にするチャンスがあることに魅力を感じました。

――放課後工房でモノづくりしたい場合は申請などが必要なのですか?

斎藤さん 上司や社長に作りたいものの相談をして、いつ頃なら加工できそうか、材料はどんなものが必要か検討します。書類の提出などは特になく、その都度相談に行くスタイルです。普段は使っていない機械を使う場合や、他の人から教えてもらったり手伝ってもらったりすることもあります。

――他の皆さんはどのようなものを作られているのですか?

斎藤さん 車やバイクが好きな人が多く、マフラーなどのパーツを作っているのを見かけます。

――それぞれ自分が好きなものの制作に取り組まれているのですね。鏡さんは入社後どのようにして仕事を覚えていきましたか?

鏡凪沙さん 出所:ものづくり新聞

鏡さん 社内の工程を1つずつ回っていく研修がありました。溶接、設計、仕上げ、溶接前の加工の順で研修して覚えていきました。今は最後の溶接前の加工をする工程を研修中です。具体的には、レーザー切断機などを使用して図面通りに板を切断する「ブランク」という作業や、切り抜いた板を機械を使い曲げて立体的にする「曲げ」という作業などを中心に研修しています(2022年6月時点)。

――社内研修は昔からあったのですか?

斎藤さん 鏡さんが入社するまでは社内研修がなかったので、鏡さんに仕事を覚えてもらうにあたり新しく作りました。初めてで手探りでしたが仕事を覚える上で大事な制度だと感じます。この春入社した新入社員も同様に研修を行っている最中です。

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