コロナ禍をはじめとする社会環境の変動により、企業のサプライチェーンにはこれまでの効率性に替わってレジリエンスが求められるようになっている。本連載の最終回となる第3回では、サプライチェーンのレジリエンスを向上するための施策を紹介する。
前回は、社会環境の変化がもたらしたサプライチェーン上の課題について、製品開発分野の活動での対応方法について述べました。今回は、統合的な視点から、具体的にサプライチェーンのレジリエンスをどのように向上させるかについてご紹介します。
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レジリエンスを高めるためには、従来のサプライチェーンリスク管理のアプローチではもはや十分ではなく、よりプロアクティブなアプローチが求められます。例えば、サプライチェーン上の急激な変更や環境リスクにいかに対応するかという課題について、リスク特定と解決策を模索することが従来の対策ですが、レジリエンスを高めるためには、より戦略的な手法を取る必要があります。ビジネスリスクを軽減するために、常にサプライチェーンの柔軟性、また冗長性を構えておくこと、そのためにはサプライチェーンネットワークのモデリングを行い、それに基づいてのシミュレーションを行っておくことが重要です(図1)。
モデリングとは現状を可視化することですが、可視化には構造的可視化と、動的可視化の両方の側面があります。
ある時点または一定期間における企業運営の状況サマリーを提供し、隠れた問題を顕在化させるために、定期的なネットワークマッピングと評価、リスク評価を実施します。こうした対応は多くの企業で実施されており、ある日用品メーカーでは、商品の製造に必要なサプライヤーの品目が全て把握され、継続的な供給をシミュレーションしています。一方でサプライチェーン全体を把握することに課題を抱える企業もあります。ある電機メーカーでは、全体の90%が可視化されているものの、仕入先のさらにその先の仕入先となるティア2のサプライヤーにおいては、電子部品以外はほとんど可視化の対象ではありません。
ある時点の断面を切り取って可視化することと対比して、活動の状況を動的に可視化するということは、企業がリアルタイムでイベントを監視し、対応するためのビデオ(時系列記録)のようなものです。
動的活動を可視化するための第1段階は「モニタリング」です。サプライチェーン機能のパフォーマンスとステータス情報を、リアルタイムで収集し、観察します。モニタリングの中核となる機能は、サプライヤーや物流業者などの主要パートナーからのリアルタイムデータを中央管制するコントロールタワーです。
第2段階では「予測」を行います。リアルタイムのサプライチェーン情報を使用して、サプライチェーンの将来の状態を予測します。また、コントロールタワーに内蔵されたトレンド分析機能およびトレンド分析機能とモニタリングによって収集されたデータを活用し、最も問題がありそうな納期はどの注文かなどを特定できます。
第3段階は「対処法」と呼ばれます。これは、リアルタイムのサプライチェーン情報と、コントロールタワーのアルゴリズムによる意思決定機能を利用する高度な取り組みです。AI(人工知能)が推奨する対処法を基に、輸送中のサプライヤーに対して、輸送先を別の場所にダイナミックに再設定するなど、好機を生かしつつ、リスクを最小限に抑えることができます。
第4段階では自動化がさらに進み、サプライチェーンの管制機能はAIや機械学習、RPA(Robotic Process Automation)を活用し、自律的に対応します。この段階では、自動で好機を生かし、混乱による影響を最小限に抑えることができます。
多くの企業は、自社の業務に関する構造の可視化は比較的成熟していますが、動的活動の可視化は初期段階にあるといえます。例えば、社内の業務については、ほとんどの企業が動的活動可視化の最初の2段階であるモニタリングと予測については実現していると思われます。ただその中でも、サプライヤーが1万社を超え、取り扱う部品点数も約1億個に上るようなハイテク企業では、戦略的な部品のみ予測を実施している場合もあります。
筆者の経験では、第3段階の「対処法」について実現している会社は半数に満たず、つまり多くの企業が一部適用、または未実施と考えられます。第4段階の自律的な実行については、実施できている企業はほとんどないのが現状です。ある消費財メーカーでは、サプライチェーンの情報を集積して自動化できる部分はあるものの、完全に自律操業はできず、手作業が必要なものが常に一定数ある状況です。
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