サプライチェーンのレジリエンスを高める「モデリング」と「ストレステスト」サプライチェーンレジリエンスに向けて(3)(2/2 ページ)

» 2023年02月02日 07時00分 公開
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2.レジリエンス・ストレステスト

 サプライチェーンネットワークのモデリングや分析よりも、さらに進んだ考え方が「レジリエンス・ストレステスト」です。これは、サプライチェーンに甚大なインパクトがあるイベントに対するレジリエンス・ストレステストを行ってサプライチェーン上の弱点を顕在化させ、対策を講じるというものです。

 レジリエンス・ストレステストは図2に示す一連のタスクを通じて実行されます。

サプライチェーンネットワークにおけるレジリエンス・ストレステストのプロセス 図2 サプライチェーンネットワークにおけるレジリエンス・ストレステストのプロセス[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 レジリエンス・ストレステストのために社内データを集積しますが、これは部材表(BOM、Bill of Material)の詳細度で集約する必要があり、そのデータソースはERPなどになるでしょう。その他にも、サプライヤー、自社生産/物流拠点/配送センター/顧客先の情報などを合わせた単一プラットフォームを構築します。

 サプライチェーンのレジリエンスとは、サプライチェーン上で発生した障害に対して対策を実行し、そこから回復する能力です。回復までに要する時間、つまり供給元や工場、配送センター、輸送のハブが非常事態によりダメージを受け、そこから通常の操業に復帰できるまでの日数のことをTTR(Time to Recover)と定義します。また、工場や配送センターなどサプライチェーン上のノードが、SKU(Stock Keeping Unit)レベルで需要を満たすようになるまで復帰する日数をTTS(Time to Survive)と定義します。TTRがTTSを上回るとレジリエンスが低いと判断されます。

 レジリエンス・ストレステストのためには、事前定義された、サプライヤーや、地勢的、顧客、自然災害など需給リスクを含んだ複数のシナリオを用意します。アクセンチュアでは8つのシナリオを用意しています。それらのシナリオの他にも、オプションを用意し、複数の変数を変動させることで何千ものシナリオの計算を行い、レジリエンスとしてのスコアを算出します(図3)。

レジリエンス・ストレステストのシナリオとスコープ/重要性 図3 レジリエンス・ストレステストのシナリオとスコープ/重要性[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 レジリエンス・ストレステストのアプローチと成果の具体例を以下にご紹介しましょう。

 とある自動車部品のティア1サプライヤーでレジリエンス・ストレステストを実施したところ、約300の部品と、彼らの部品供給元であるティア2以下のサプライヤーからの400の部品についてリスクがあり、潜在的には3〜4年間にわたり1.6億〜2.6億米ドルの売り上げを毀損(きそん)するリスクがあると判明しました。これに対応すべく、複数購買、部品の再設計、在庫の戦略的バッファー、また部品供給元や顧客との関係性改善などの対策を実施しました。

 またある食品メーカーでは、150の供給元、550の原材料、3つの工場と9つの配送センター、1700の顧客を含むサプライチェーンネットワークのデジタルツインを構築し、可視化した上でレジリエンス・ストレステストを実施しました。その結果、適切な事業継続計画なしには、重要な5つの原材料について供給上のリスクがあり、結果として5億米ドルの売り上げ減につながるリスクがあることが分かりました。さらに、単一の購買先に依存し、かつ在庫が少ないため15億米ドルを失う危険性があることも判明し、対策として部門横断型の組織にて購買先の決定、サプライチェーンネットワーク再構築を実施しました。

 成果となる例を図4に示します。

レジリエンス・ストレステストの評価項目とテスト結果例 図4 レジリエンス・ストレステストの評価項目とテスト結果例[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

3.最後に

 本連載では3回にわたってサプライチェーンのレジリエンスについてご説明しました。近年は国際情勢、社会、自然環境による大変動がより頻発し、企業活動にも予測しえないダメージを与えることが増えてきています。このような時こそ、自社のサプライチェーンを可視化するとともに供給能力の現状を見極め、さまざまなシナリオによるテストを実施し、弱点を顕在化し克服していくことが、安定的な収益確保につながると考えられます。読者の皆さまも、ぜひ今回の連載内容を参考にサプライチェーン改革に取り組んでいただければ幸いです。

 連載中お付き合いいただきありがとうございました。(連載完)

筆者プロフィール

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志田 穣(しだ みのる) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 エンジニアリング・R&Dリード マネジング・ディレクター

設計開発領域を核として、複数の製造業デジタルトランスフォーメーションプロジェクトを統括。アクセンチュア入社前は、原価管理ソリューション、開発における法規文書管理など多岐にわたるPLMプロジェクトを推進。また、産業IoT事業開発企画等のコンサルティング、自動車を中心とした組立系製造業にCAD/PLMツールの導入や、それをてこにした設計開発業務のプロセス改革に従事した経験がある。

アクセンチュア株式会社 https://www.accenture.com/jp-ja

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