例えば納期と効率を両立するような制約条件については、まず数百種類のオーダーから共通する品種と締め切り日を満たす1日分のオーダーの組み合わせを選択し、次1日分のオーダーに対して段取り時間が最小になる順番を組んでいく。その結果、熟練者が1〜2時間かけていた業務を、ものの数秒でかつより無駄の少ない計画を立案できるようになった。
今回は熟練者でも難しい複数ラインの最適化に取り組む。複数の混流生産ラインの計画立案となると、複数ライン間での段取り作業者や治工具の重複などリソースまでを考慮する必要がある。2つのラインの間で段取りが同時に発生した際に、片方の段取りを後回しにするのか、2ライン分の作業ができるように倍の人数を配置するのかなどの要素が生まれる他、数に限りのある治工具を複数ラインで共有した場合、同時に同じ治工具を使うことになるとやはり作業が重複してしまう。これらの調整は熟練者でも困難だった領域だ。
NECプラットフォームズでは、4つの事業所への本格導入により、段取り工数の50%削減と設備稼働率の15%向上および生産計画立案工数の90%削減を見込む。定量的な効果だけでなく、定性的な成果も得られているという。タイ工場のSMTラインにも展開する予定となっている。
NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネジャーの重岡雅代氏は「熟練作業者のノウハウを形式知化し、スキルフリー化につながった他、これまでに感覚的だった計画の妥当性が定量的に判断できるという定性的な効果も得られている。これらは先端のICT(情報通信技術)に加えて、モノづくり現場を実際に持つNECだからこそ実現できた。今後は、工場内の他の組み合わせ問題の解決にも応用し、サプライチェーン全体の棚卸最適化を進めていきたい。半導体ひっ迫などの突発変動にも柔軟に対応し、より良いプロダクツを提供していきたい」と話す。
NECは2022年にICT機器の保守サービスを提供するNECフィールディングと共同で、量子コンピューティング技術を活用した保守部品の配送計画立案システムを構築したことを発表している。AIに関しても、故障予兆や映像解析、需要予測などさまざまなサービスを提供している。
NEC 先端プラットフォーム事業部門 量子コンピューティング事業統括部長の泓宏優氏は「AIと量子アニーリングはこれまで人間にしかできないと思われていた作業が技術の進化によって可能になったという観点では似ているが、両者は似て非なるものだ。AIは過去のデータを勉強して利口になる。“なぜそうなるか”の説明はつかないが、“過去のデータからこうなる”という形で処理が行われる。量子アニーリングは今ある膨大な組み合わせから最適な条件のものを選ぶ。人間が千里眼のようなものを手に入れたといえる。AIによって未来を予想して、組み合わせ最適化で一番最適な方策を瞬時に選んで対処することができれば、全てがデジタル空間で解決できるようになる。デジタルツインの価値が飛躍的に増大する」と語る。
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