製品カタログをみて半導体を仕入れる場面や、代替がきく半導体を使う場面は、当然これからもあるでしょう。ただ、自分たちが勝とうと思っている領域でカタログに載っている半導体を選ぶのは「二番煎(せん)じになり、誰かが決めた範囲の中でしか勝負できなくなる」と大村氏は危機感を示します。
半導体メーカーを振り向かせるニーズを示した企業は、そのニーズを踏まえた半導体が製品カタログに載る数年前からその半導体を使って何をするのか、どのような業界標準を実現するのかを考えています。必要なIP(Intellectual Property:知的所有権)も手の内にあり、標準化への仕込みやソフトウェアの準備も迅速に進みます。そのIPのために生産設備が決まることもありますので、そうなれば「自分たちのために半導体を作ってもらう」という理想形に近づきます。
これに対し、製品カタログをみて仕入れるところからスタートすると、業界標準を理解し、IPを使いこなすまでに時間がかかり、出遅れてしまいます。IPのライセンス料の支払いも発生します。社外からの技術的なサポートを受けざるを得ない場面も出てくるでしょう。
自社のニーズを半導体に反映して競争力を高め、差別化を図っている企業の好例はApple(アップル)だといえるでしょう。Google(グーグル)やソニーグループなども同様ですし、日本の自動車業界ではデンソーとエヌエスアイテクス(NSITEXE)が代表的です。
自動車に関して、半導体メーカーを動かすようなニーズを描けるのは、自動車メーカーだけではありません。自動車の全体像や将来像に向けて自社の技術がどう貢献するのか、という視点を持ったサプライヤーも増え始めており、モデルベース開発(MBD)が大きく役立っています。
全体像を見始めたこうしたサプライヤーにとって、目先では「ほぼ完成品のシステムを求める自動車メーカーに売り込むため」という動機が大きいかもしれません。しかし、最終製品の全体像を見ながら自社の競争力を磨くのは、半導体メーカーが動くようなニーズに落とし込むことにもつながり、将来における半導体の安定確保にも結び付いていくことでしょう。
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