ラピダスがターゲットとする次世代半導体は、製造そのものに技術面や資金面で高いハードルが待ち構えています。しかし、「どんな半導体が必要とされているか」という点での議論が深まらなければ、ラピダスが思い描く「必要な次世代半導体を最短で実現する仕組み」は確固たるものにはなりません。
コロナ禍で広がった車載半導体の供給不足は、自動車向けに充てられていた生産能力が他のアプリケーション向けに振り替えられてしまったことが一因でした。自動車業界が次世代半導体の開発や量産を待つのではなく、早期に半導体業界に向けてオーダーできれば、“自動車業界のために次世代半導体を製造してもらう環境”の実現に近づくことができる、と考えることができます。これも「半導体の安定確保」の形です。
しかし、当然のことながら「自動車(あるいは自社)向けに半導体を作ってほしい」とだけ頼み込んでも、そのニーズでは半導体メーカーは動きません。また、「他社に負けない優れた部品を作って、持ってきてもらう」というあやふやなニーズかつ受け身の姿勢は、足元の調達においても、次世代半導体の国産化においても通じなくなっています。
半導体メーカーに働きかけるポイントは「半導体メーカーに『作りたい』と思わせることができるかどうか」だと日本電産 常務執行役員の大村隆司氏は考えています。
大村氏はルネサス エレクトロニクスやソニーグループの半導体事業といった半導体業界を経て、日本電産の半導体ソリューションセンター所長を務めています。半導体メーカーが作りたいと思う半導体について、大村氏は「ヒットして普及し、デファクトスタンダードを狙えることは大前提として、先見性があり技術的に新しい取り組みやチャレンジがあること」と説明します。
最終製品としてみたときに、スマートフォンやゲームなどは自動車に比べて数量の面で圧倒的に強い立場にあります。数量の面で自動車よりもスマートフォンやゲーム向けの半導体が優先されるという側面はもちろんありますが、それだけでなく、スマートフォンやゲームなど向けの半導体は製品サイクルが早く、次々と新しいことに挑戦するニーズがあり、最先端の技術を生かす機会でもあるというのです。数量以外にも、半導体メーカーにとって自動車の優先順位が低い理由があるといえそうです。
大村氏がルネサス エレクトロニクスで車載事業を担当していた時期に、ある企業のニーズを受けて開発した製品があったそうです。メディアなど対外的には、「どのような機能を盛り込んでルネサス エレクトロニクスが開発した製品なのか」を説明しますが、その裏には半導体メーカーが受けて立ちたいと思うニーズやヒットの可能性を示せた企業がいたのです。
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