さて話をLynxOSに戻す。以下に、LynxOSの特徴を幾つか挙げてみよう。
間違いなくRTOSではあるのだが、ページングをサポートしながらハードリアルタイムを可能にしているあたりがあまり普通ではない。これはネットワークサポートもそうで、FreeBSD 8.3由来のTCP/IPのフルスタックに加え、IPv4/IPv6サポートやIPSec/IKE/VPN、QoSなどをサポートし、ファイアウォールまで用意している。何というか、ハードウェア的にはLinuxを動かせるようなターゲット上で、ハードリアルタイムを動かせるようにした、という通常のRTOSとは全く異なる構成である。
ターゲットデバイスも、x86(32ビット/64ビット)とPowerPC(FreescaleのQorIQ)の他、さらに64ビットArmプロセッサもサポートしている。何で今さらPowerPC? と思われるかもしれないが、航空宇宙分野ではPowerPCがまだ広く使われているためである。Freescaleというか現NXP Semiconductorsは航空宇宙向けのPowerPC製品は提供していないが、同社からライセンスを受けたTeledyne e2vというメーカーが航空宇宙向けに耐放射線強化や動作温度範囲拡充(−55〜125℃)を施したQorIQシリーズを提供しており、これまでSPARCベース(厳密にはSPARC V8に基づいたLEONという独自プロセッサ)が使われていた市場で現在広く採用され始めている。
さらにこの市場を後追いしているのがRISC-Vだ。LEONを提供していたGaisler Researchは、現在NOEL-VというRISC-Vベースプロセッサの提供を開始しているものの、まだPowerPCのシェアは大きい。なお、LynxOSにおけるRISC-Vへの対応については、FAQによれば「現時点では対応していないが、顧客からの要望をヒアリング中」というステータスになっている。
つまり、通常のRTOSの枠を超えるような大規模なリアルタイムシステムに対応することを目指したのがLynxOSである。航空機のアビオニクスなどその最たる例だろうし、他にも軍用レーダーやミサイルの制御システムなどもLynxOSのターゲットになっている。競合があまりないが故に現在も広く使われているというわけだ。
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