エッジコンピューティングの逆襲 特集

Windows環境と共存可能なRTOS「RTX/RTX64」の生存戦略リアルタイムOS列伝(26)(1/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第26回は、多くの機器に採用されているWindows環境との共存が可能なRTOS「RTX/RTX64」を紹介する。

» 2022年09月05日 07時00分 公開
[大原雄介MONOist]

 「RTX/RTX64」は、かなり特殊なリアルタイムOS(RTOS)である。どの辺が特殊かというと、x86/x64プラットフォームの上で動き、しかもWindows環境と共存するところである。こうしたRTOSは、他のケースで見たことは無い。

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1980年の創業からCitrix買収を経て再独立

 RTX/RTX64の開発元はIntervalZeroである(図1)。創業は2008年になるが、歴史的に言えば1980年にさかのぼる。同年、米国マサチューセッツ州ケンブリッジでVenturComというソフトウェア企業が創業した。同社はデバイスドライバやネットワークスタック、あるいはOSカーネルなどを提供するOEM向けビジネスと、ソフトウェアをデバイスに配布するSoftware-Streaming Products(ソフトウェアストリーミング製品)の提供を行っていた。

図1 図1 IntervalZeroのWebサイト[クリックでWebサイトへ移動]

 その後VenturComはArdenceに改称するが、そのArdenceを2006年にCitrix(シトリックス)が買収する。Citrixのもくろみは、ArdenceのSoftware-Streaming Productsをビジネスで利用したいというというものだった。この結果、Ardenceの部隊はCitrixのEnterprise and Embedded software business Divisionとなったが、Software-Streaming Productsを抱えるEnterpriseはともかく、OEM向けのデバイスドライバやネットワークスタック、OSカーネルなどのEmbeddedの方はCitrixのビジネスと馴染まない、という結論が出たらしい。最終的に、Embeddedのトップが新たにIntervalZeroという会社を設立し、CitrixのEmbedded software business Divisionを2008年に買収するという形で分社化というか再独立を果たす格好となる。

 IntervalZeroのCEOはJeffrey D. Hibbard(ジェフリー・ヒバード)氏であるが、Hibbard氏の前職はCitrixのマーケティングディレクター、その前はArdenceのマーケティング担当VPである。要するにArdenceが名前を変えて再創業した格好だ。

 実はこれは製品にも反映されている。現在IntervalZeroが販売している(いた)製品は以下のようになっている。

  • ETS(Phar Lap Embedded Tool Suite RTOS)
  • RTX(RTX 32bit)
  • RTX64
  • RTX64 Networking Option
  • Machine Vision for Real-time

 これらのうちRTX64 Network OptionとMachine VisionはどちらもRTX64のアドオンなので、実質的にはETSとRTX、RTX64の3つということになる。

 それではまずETSだが、これはPhar Lap Embedded Tools Suite RTOSの方が通りが良い。大昔のMS-DOSの時代に、Phar Lap DOS Extenderという名前を耳にされたことがある読者も若干はいらっしゃるのではないかと思う。もともとはPhar Lap Softwareという1986年創業の会社が開発したもので、386以上のプロセッサを搭載しているハードウェア上のMS-DOS環境において、386の仮想x86モードを有効にすることで最大4GBのメモリを利用可能にするという機能を備えている。

 もちろんこれが使われたのはごく一瞬であって、ユーザーがWindows環境に移行したことで廃れてしまったのだが、それはともかくとしてDOS Extender上で動作するプログラムは、当然普通のDOS環境向けのコンパイラやリンカーでは作成できない。そこで、Phar Lapはコンパイラやリンカーを含めた専用の開発環境を提供しており、こうした資産を基に提供したのがETSである。ただし、Phar Lapはその後Ardenceに買収され、現在はIntervalZeroがETSを保有している格好だ。

 売りになっているのが、PCのハードウェアをそのまま利用して、DOSよりも広大なメモリ環境を、Windowsよりもずっと少ないオーバーヘッドで利用できるという点である。ETSはマイクロカーネルベースで、最小構成88KB、I/Oやネットワーク、グラフィックスを利用しても500KB未満のフットプリントに抑えられ、それでいながらSustained interrupt rateは30kHz弱(つまり割り込みのオーバーヘッドは33μsec強)と比較的リアルタイム処理に強く、しかもWin32 APIに互換(バイナリ互換ではなくソース互換)のライブラリを提供しているので、Win32アプリケーションからの移行も容易というのがうたい文句だった。

 とはいえさすがに現在ETSの提供は完全に終了しており、ETSのランタイムライセンスのみが販売になっている

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