ついに、H3ロケット初号機の打ち上げが2022年度内に実施される見通しとなった。これまで難航してきた開発の中で、何が起きて、それをどう解決したのか。打ち上げを前に、本稿ではそのあたりの経緯をまとめることにしたい。
日本の次期基幹ロケット「H3」がついに完成し、2022年度内に初号機の打ち上げが実施される見通しとなった。H3ロケットは当初、2020年度の初フライトを予定していたが、第1段エンジン「LE-9」の開発が難航。JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2回にわたって打ち上げの延期を余儀なくされていた。
新型ロケットの開発において、エンジンは最難関であるといわれる。世界的に見ても、当初の予定通りに完成するロケットなどほとんどないくらいなのだが、H3ロケットには何が起きて、それをどう解決したのか。打ち上げを前に、本稿ではそのあたりの経緯をまとめることにしたい。
H3は、全長約63mの大型ロケットである。大きな特徴は、第1段エンジンに「エキスパンダーブリード」方式のエンジンを初めて採用したことだ。この方式は、大型化が難しかったものの、従来の「2段燃焼」方式に比べ、シンプルで低コスト化に適している。さらに、本質的に爆発しにくいという安全性の高さも備えている。
推進剤は、燃料に液体水素、酸化剤に液体酸素を使う。それぞれターボポンプで昇圧し、燃焼室内に供給。そこで反応させ、燃焼によって発生した高温/高圧のガスをノズルから勢いよく噴射することで、ロケットエンジンは推力を得ている。
1回目の打ち上げ延期では、このターボポンプと燃焼室でそれぞれ問題が発生した。2020年10月に掲載した前回の記事では、この問題について詳しく紹介しつつ、H3ロケットやLE-9エンジンの特徴についても説明したので、詳細はそちらを参照して欲しい。今回は、その続きから説明を開始することにしたい。
このときに問題となったのは、以下の2つ。これらは、2020年5月に実施した燃焼試験において発生した事象だった。
これらのうち(2)については、無事に解決することができた。同年11月より9回の燃焼試験を行って、燃焼室内壁の温度データを取得。定常燃焼中に高温の温度サイクルが負荷となり、開口に至ったことを突き止めた。対策として冷却を強化し、上限(約1100K)以下で作動させることにした。
一方(1)については、共振が原因であったため、構造固有値を運転領域から除外するよう、タービンの設計を変更した。しかし、対策した共振については改善効果が確認できたものの、試験中に新たな問題が発生。今度はタービンディスク部にヒビが発生しており、追加の対策が必要になってしまった。
この破損は、共振ではなく、フラッタが原因だった。どちらも現象としては振動になるが、共振が外部の振動と同期して揺れが大きくなる現象であるのに対し、フラッタは物体と周囲の流体が連成して振動が生じるという違いがある(こいのぼりが揺れるイメージ)。いずれにしても、高速回転するターボポンプにとっては、宿命ともいえる問題である。
また水平展開として、液体水素側だけでなく、液体酸素ターボポンプ(OTP)の設計も変更していたが、こちらについても共振は改善が確認できたものの、別の振動現象が確認され、この対策も必要になった。
これらの対策が追加で必要になったことで、JAXAは再延期を決定。2022年1月に、ターゲットとしていた2021年度内の打ち上げを断念したことを明らかにした。
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