既に2回延期したことで、JAXAとしては、これ以上の延期は何としても避けたいところ。ただ、問題となったターボポンプの設計を変更し、試験結果を待っていては、もしうまくいかなかったときにそこからまた設計を変更することになり、時間がかかってしまう。このリスクを避けるために採用したのが、複数の案を並行開発する方式だ。
あらかじめ複数の案(JAXAは“矢”で表現)を用意しておけば、もし一つがうまくいかなくても、すぐに次の案を試すことができて、タイムロスを最小限に抑えられる。JAXAはFTP/OTPそれぞれに対し、微修正の“0の矢”から始めて、より大きく変更する“1の矢”、“2の矢”と次々と放つことを決めた。
この方針を実現するため組織の改革にも着手した。まずは、複数の設計チームを編成。さらに、異例ともいえる「ターボポンプ開発推進室」を常設することで、JAXAや各メーカーとの間の意思疎通を密にしたという。
複数の“矢”を組み合わせて、2022年3〜6月には8回の翼振動計測試験を実施した。その結果、初号機のターボポンプで採用する設計案として、FTPに“0の矢”、OTPに“1の矢”を選定した。設計が確定したところで、次は燃焼試験を実施。計測データや目視点検によって健全性が確認され、JAXAは2022年9月、2022年度内に打ち上げる方針を固めたのだった。
そしてロケット開発にとって、“最後の関門”ともいえる試験が、「実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」である。これまで、エンジン単体の燃焼試験や、模擬タンクと組み合わせた「厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT)」などは行ってきたが、CFTは、実際のロケットの機体とエンジンを使って行うというものだ。
CFTは、本番の打ち上げと同じように、種子島宇宙センターの第2射点で実施する。大型ロケット組立棟(VAB)から移動させ、射点で配管を接続。推進剤を充填(じゅうてん)し、燃焼を行う。CFTは単なる燃焼試験ではなく、地上設備も含めたロケットシステム全体の機能を確認し、リハーサルとして一連の作業を実施することも狙いだ。
CFTは、2022年11月7日に実施。試験用の計測装置の問題で9時間の遅れはあったものの、予定通り、約25秒間の燃焼を終え、結果は良好だったという。既に年末が迫っており、もしここで大きな問題が発生したら、スケジュールはかなり厳しくなってしまう。特に問題は見つからなかったということで、関係者は胸をなで下ろしたことだろう。
これで、大きな試験は全て完了。ロケットが完成したことになり、いよいよ残すは打ち上げのみとなった。種子島では、2023年1月25日に、H-IIAロケット46号機が打ち上げられる予定。この前にH3ロケットを打ち上げることはないだろうから、おそらく同年2〜3月になるものとみられる。
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