3D CADの本格運用に際して直面する「データ管理」に関する現場課題にフォーカスし、その解決策や必要な考え方を、筆者の経験や知見を交えて解説する。第7回は前回に引き続き「共通部品の管理をPDMシステムで行うにはどうしたらいいの?」をテーマに、「形状変更が発生する部品の扱い」について考える。
PDM(Product Data Management/製品情報管理)システムのライブラリに部品データ(3D CADデータ)を登録すると、その部品はPDMシステムを使用する設計者に共有され、誰もが同じ標準のデータ(共通部品)として利用できます。
共通部品としては、加工部品のように、固有の部品ファイル名が付けられているものの他に、光学カメラ(CCD本体)や非接触センサー、標準機械部品(支柱、支柱クランプ、スタンド、位置決めピンなど)といった型式によって外形形状サイズが決まっているメーカー購入品のように、形状と部品ファイル名が必ず1対1でひも付いているものがあります。
一方で、使用部品の状態によって形状が変化する、例えば、ストロークによって形状が変化する直動部品やエアシリンダーなども存在します。今回は、前回からお届けしている「共通部品の管理をPDMシステムで行うにはどうしたらいいの?」の続きとして、「形状変更が発生する部品の扱い」について考えてみます。
直動部品(図2)やエアシリンダー(図3)は、メーカーから3D CADデータとして提供されることが多く、そのほとんどがアセンブリになっています。
直動部品の場合、同じ長さのレールを使用していても、これを利用するユニットによって、図示化したいブロックの位置が異なってきます。同様に、エアシリンダーに関しても、同一ストロークを持つものを使用したとしても、その用途によって、図示化したいロッドの位置が違ってきます。
このような移動量を持つ機械要素部品を任意のストローク位置の状態で保存し、PDMシステムで共有する(共通部品として使用する)には、以下のような点に注意しなければなりません。
図4は、ライブラリにあったエアシリンダーをロードした後、編集権限を持つ設計者がストロークの編集を行った結果、ライブラリの状態が変化してしまった(図4左から右の状態に変化してしまった)ことを表しています。過去に誰も使用したことのないライブラリデータであれば問題ありませんが、使用実績がある場合には、過去の設計に影響を及ぼしてしまいます。
では、ライブラリで固定されてしまっているアセンブリデータを、適用する設計に応じて、自由度を持たせるにはどうしたらよいでしょうか。これを理解するには、3D CADアセンブリのパーツや、アセンブリとはどのようなものであるかを正しく知る必要があります。
パーツデータは、単品、1つの構成部品の3次元形状/形体(geometry)のデータにより構成されています。筆者が使用している「SOLIDWORKS」ではマルチボディーといわれる、1パーツの中に複数のボディー(ソリッドボディー)を持つ構成もあります。その他には、部品名や材料名などの属性情報を持つことが可能です。
アセンブリデータは、アセンブリ情報を保持しているだけで、パーツデータそのものは持っていません。アセンブリ情報とは、アセンブリ配下の部品ファイル名やサブアセンブリファイル名と、それぞれの位置情報によって構成されています。その他、アセンブリの属性情報を持たせることが可能です。なお、SOLIDWORKSではアセンブリファイル内部に保存される仮想構成部品、「iCAD SX」では内部パーツといわれるアセンブリ内に持つパーツデータを作成することもできます。
PDMシステムにおいても、アセンブリデータは個別のフォルダや共通フォルダにあるパーツデータとリンクしています。PDMシステムを使用していなかったときのアセンブリ構成とは異なるものとして捉えるのではなく、データベース化による管理方法に、改訂履歴/廃版管理、参照先やその逆展開ができる機能が追加されたものと考えるべきです。
理想的なPDMシステムの運用としては、その成果物として、適切な設計情報の管理だけでなく、部品表(BOM)の作成も求められるため、これらを考慮した上での運用検討が必要になります。その際、まずは基本的な3D CAD構成としてどうすべきかを、ツールではなく運用面の視点から考えることが重要となります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.