立命館大学は2022年11月9日、触覚センサーなどを搭載するマイクロハンドを操作し、ダンゴムシの脚力などの測定に世界で初めて成功したとして、説明会を開催した。同研究は同年10月10日に「Scientific Reports」のオンライン版に掲載された。
立命館大学は2022年11月9日、触覚センサーなどを搭載するマイクロハンドを操作し、ダンゴムシの脚力などの測定に世界で初めて成功したとして、説明会を開催した。同研究は同年10月10日に「Scientific Reports」のオンライン版に掲載された。
今回の研究成果は、立命館大学 理工学部 教授の小西聡氏が率いる研究チームが発表したものである。研究では、人間の手を模したマイクロフィンガーを5本持つマイクロハンドを操作者の人間が遠隔で動かし、タコの吸盤に着想を得て開発された「マイクロ吸盤」で固定したダンゴムシの足などに触れて力を計測するという実験を行った。
マイクロフィンガーは長さ12mm、幅3mm、厚さ490μmのシリコンラバー製装置で、内部に液体金属製の歪(ひずみ)センサーを搭載している。センサーに加わった圧力を検出することで、装置の姿勢計測や力計測を行う仕組みだ。温度センサーを搭載することで、マイクロフィンガーが触れた対象物の温度も計測することができる。
さらに、小西氏らは操作者が自らの手を乗せて使う専用のコントローラーによって、ダンゴムシにマイクロフィンガーが接触した際の力覚などの情報をフィードバックする仕組みも構築した。マイクロフィンガーが触れる対象物から加えられた力や温度といった情報を体験できる。
コントローラーは指をはめるサックと、指を曲げ伸ばしする際の軌道に沿ったガイド、エアシリンダーなどで構成されている。操作者がガイドに沿って指を動かすと、エアシリンダーが圧力を検知して、遠隔地にあるマイクロフィンガーが動くという仕組みだ。逆に対象物から力が与えられた際には、その力の大きさをある程度増幅した上で、操作者の手先に伝える。またサック内部にはペルチェ素子が搭載されており、対象物の温度も同じように伝えることができる。
これらの仕組みを使って実験を行った結果、ダンゴムシの脚力はおおむね4mN前後であるが、最大で約8mNに達することもあると判明した。また、ダンゴムシが体を丸める際などの胴体力については、最大で15mN近くに達することもあると分かった。なお、計測に当たっては13匹のダンゴムシを用意し、それぞれの体重も考慮した上で力を測定している。
今回の研究を実施した背景について、小西氏は「ミクロの世界は顕微鏡の中でしか見えない、日常生活では実感しづらい領域だ。一方で、医療分野などでは細胞を操作することで研究を進めているが、そこでマイクロロボットハンドを活用する動きがある。対象物の映像と、ハンドが対象物に触れた感覚をAR(拡張現実)技術で操作者に提示できれば、自分で操作して触れられる、いわば『触れる顕微鏡』が実現でき、私たちの身の回りに広がるマクロの世界とミクロの世界をつなげられるのではと考えた」と説明した。
なお、研究対象としてダンゴムシを選んだ理由については、「20数年前にデジタルマイクロスコープでダンゴムシを観察したのだが、その造形や多くの足が動いている様子に衝撃を受け、いつか触ってみたいという好奇心があった」と語った。実際にダンゴムシの力を測定した感想としては、「脚力は研究に先立って行った検証過程の中で想定していた範囲内のものだった。一方で、胴体の力は予想より強いように思った」(小西氏)という。
小西教授は今回の研究の成果自体の応用などは「今後のアンメットニーズ(潜在的なニーズ)の掘り起こしに期待する」とした。一方で、同氏の研究室でも進めているマイクロフィンガー技術は、内視鏡手術や眼球内の細胞シート移植手術、培養細胞の組織操作といったメディカル、バイオ分野での活用が期待されている。
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