ソニーは2022年10月5日、嗅素(においの素)を手軽に制御する「Tensor Valve(テンソルバルブ)」テクノロジーを開発し、におい提示装置「NOS-DX1000」を2023年春に発売すると発表した。当面は、耳鼻咽喉科や、アルツハイマー型認知症を扱う神経内科などの医療分野での展開を想定する。
ソニーは2022年10月5日、嗅素(においの素)を手軽に制御する「Tensor Valve(テンソルバルブ)」テクノロジーを開発し、におい提示装置「NOS-DX1000」を2023年春に発売すると発表した。当面は、耳鼻咽喉科や、アルツハイマー型認知症を扱う神経内科などの医療分野での展開を想定する。
ソニーグループでは、Purpose(存在意義)として、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を掲げてきたが「主に取り組んできたのは視覚と聴覚の領域だった。また、触覚と連動した体験価値の提案も進めているが、従来嗅覚は手付かずとなっていた。今回新たに、嗅覚に関する技術開発テーマを加えることで、新たな価値創出を目指す」とソニー 新規ビジネス・技術開発本部 副本部長の櫨本修氏は語る。
嗅覚活用のために開発したのが、Tensor Valveテクノロジーである。Tensor Valveテクノロジーは、においの素とそれを開閉するアクチュエーターなどで構成され、アレイ上に連なる40種の嗅素成分を含むカートリッジを即時に切り替え、通風で被験者ににおいを届ける技術である。におい漏れを抑制する高気密カートリッジ技術や、においの気流が巡るらせん流路構造などを備えている。
試験者が、5種類×8つのレベルの濃度の特定のにおいをスマートデバイスのアプリで選択すると、あらかじめその40種類の内の1つのにおいが備え付けられたカートリッジが回転して被験者の前で通風孔を開き、特定のにおいを届けるという仕組みだ。複数のにおいや濃度を組み合わせることはできず、においの種類や濃度は事前に決めてカートリッジ内に仕込んでおく必要がある。においそのものは特定のものがあらかじめ決まっているため、においを計測するセンサーなどは搭載していないという。
嗅覚の測定については、副鼻腔炎など耳鼻咽喉科領域のニーズだけでなく、神経内科領域でも認知症やパーキンソン病で発症前から嗅覚低下が見られるため、前兆把握のために活用が期待されている。ただ、従来の嗅覚測定は人手が中心で、複数嗅素の提示や記録に手間がかかる他、におい漏れの問題なども起きていた。「NOS-DX1000」を活用することで、アプリでタッチするだけで、瞬時に嗅素を提示できるほか、におい漏れも抑制。またデジタル化で結果の記録や閲覧、分析が簡単に行えるようになる。
ソニー 新規ビジネス・技術開発本部 事業開発戦略部門 ビジネスインキュベーション部 嗅覚事業推進室 室長の藤田修二氏は「われわれが目指しているのは嗅覚測定のDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。新製品により嗅覚測定の負荷が小さくなれば、視覚測定と同様にさまざまな用途での活用が期待でき、新しい価値創出ができる」と述べている。
嗅素や嗅覚測定については、同分野の代表的製薬企業の1つである第一薬品産業とパートナーシップを結んでいる。嗅素を仕込むカートリッジの製造販売などは、第一薬品産業から行う計画だという。今後は日本鼻科学会、日本神経治療学会、日本認知症学会、日本老年精神医学会などで展示しながら、医療従事者の声を集め、2023年春の発売を目指す。
また、「NOS-DX1000」そのものは医療機器認定を取得せず、カートリッジで医薬品認定を取得する形で医療分野に展開していく計画だ。申請そのものはこれから行う予定だという。「カートリッジの内容次第で、装置自体は医療分野以外にも活用できる。それを見据え、装置そのものは非医療機器として展開する」(藤田氏)。
今後は、これらの医療分野での展開を進めていくとともに、オープンイノベーションの形でパートナーを募り、新たな価値やビジネスの模索を進める計画だ。「エンタテインメント領域やコミュニケ―ション領域で機会創出を目指す」(櫨本氏)。また、ソニーグループ内でもゲームや映画など、嗅覚を活用できそうなエンタテインメント事業を展開しているが「グループ内に対しても可能性を排除することなく、これから話を進めていく」と櫨本氏は述べている。
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