図4は2019年時点での地域別の付加価値額です。
従業者数が増えている愛知県はもちろんですが、茨城県、三重県、滋賀県、山口県などでも付加価値額が増加しています。
ただ、全体としてみると、やはり減少傾向にある地域が多いようです。例えば大阪府は約2兆1000億円、神奈川県は約2兆3000億円減っており、特に東京都は4兆9000億円と大きくマイナスになっていますね。東京都は付加価値額も20年の間に半分未満に落ち込んだことになります。
製造業全体で見ると、20年間で約107兆9000億円から約100兆2000億円と7兆7000億円程度減っています。しかし東京都と大阪府、神奈川県の3都府県における減少額の合計はそれを大きく超える、約9兆3000億円のマイナスです。
せっかく地域別の付加価値額と従業者数のデータがありますので、従業者1人当たりの付加価値=生産性についても可視化してみましょう。各地域の付加価値額を従業者数で割った1人当たり付加価値を比較したのが図5です。
2019年時点での1人当たり付加価値(左軸)と、1999年からの変化率を黒丸(●)で表現(右軸)しています。製造業の年間の生産性は全国平均で約1299万円ですので、他産業と比べて生産性の高い産業だといえるでしょう。
これは各企業の取り組みで生産性が向上している面が大きいと思いますが、日本の製造業は小規模事業者の間で淘汰(とうた)が進んでおり、これによって結果的に生産性が高まっているという側面もありそうです。
特徴的な変化を見せているのが東京都です。東京都は極端に労働者数が減っている地域ですが、生産性はむしろ低下しています。徳島県や長崎県、青森県など他の都道府県では従業者数の減少に伴い、生産性が高まっている例が多く見受けられる中、気になる動きを見せているように思います。
1999年時点では東京都の年間の生産性は約1334万円でしたが、2019年時点では年間で約1145万円と1割以上低下しています。製造業全体の平均値を大きく割り込んでいることが分かります。
都道府県全体で見ると生産性のトップは山口県で、次いで徳島県が2位、滋賀県が3位という順番のようです。もちろん、これはあくまで製造業に関する生産性の話であって、各地域で盛んな産業は異なります。あくまでも参考程度に眺めていただければと思います。
今回は製造業で生じている変化について、地域別に統計データを眺めてみました。多くの地域で従業者数が減ってしまい縮小傾向にありますが、生産性の向上に伴い、付加価値額が成長している地域も多いようです。
その代表例は愛知県でしょう。自動車産業の盛んな同県の製造業は大きく成長しています。地域単位で見ても非常に大きな存在感を示しているのが特徴的です。
一方、東京都の製造業は従業者数も付加価値額も20年前から半減と、極端に縮小しています。本社や間接部門が東京都に多く残る一方で、生産部門が各地域に分散していったという背景事情が影響していると考えられるかもしれませんね。
このように地域別のデータを見ることで、さまざまな変化を想像してみるのも楽しいのではないでしょうか。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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