前述の通り、DTダイナミクス設立の目的は「ミスミとCCT間にある組織の壁を取り払う」ことにある。吉田氏は、「これまではmeviyの事業チームが、営業やマーケティング、問い合わせ窓口などで収集したVoC(顧客の声)を基に新機能の要望を出して、ITエンジニアがそれを実装していくという流れで開発を進めていた。これ自体は一般的なシステム開発の流れだが、“グローバルでもナンバー1”という目標を達成する上では、開発速度が不十分だと考えた」と説明する。
ミスミとCCTは、以前からmeviyの開発エンジニアがユーザーの要望に直接触れる機会自体は設けていた。今後はDTダイナミクスという単一の組織でITエンジニアがVoCを拾い上げることで、サービスづくりへの意識を強く持って業務に向き合い、顧客ニーズをシステム開発にフィードバックする速度の向上を目指す。これによって、meviyの市場競争力を高める計画だ。
「ミスミには『創って、作って、売る』という会社哲学がある。開発、製造、販売それぞれで機能別組織を立てるのではなく、ワンセットの組織でモノづくりを行うという考えだ。プロダクトを顧客に提供して、VoCを収集し、それをフィードバックしてさらに良い製品を作る。このサイクルを迅速に回すことが市場競争力の向上につながる。DTダイナミクスにおいても、こうした基本思想を反映した取り組みを進めたい」(吉田氏)
合弁会社設立のもう1つの目的は、IT人材を確保する体制を整備するためだ。製造業においてもデジタル戦略が重視されるようになって久しいが、ITエンジニアの採用難に苦慮する企業も少なくない。吉田氏は「これからの時代、製造業をはじめ物流業や建設業などの非IT企業も、どんどん『IT企業化』を進めていくべきだと思う。だが、日本国内では約7割のエンジニアがSIerに在籍しており、事業会社側にはほとんどIT人材がいない。ITエンジニアの約7割が事業会社に所属し、高速でシステム開発を行う米国とは対照的だ」と危機感を見せる。
そこでDTダイナミクスでは、CCTが持つ「Ohgi」というITエンジニア調達プラットフォームを介して、プロジェクトベースで必要なITエンジニアを集めようとしている。Ohgiではデータベースに登録されている約9万人のITエンジニアから、スキルやスケジュールを鑑みて効率的な人材確保が行える。多数のITシステム開発企業を介することなく直接個人に声掛けができる分、人材確保のコストも低く抑えられる。
田口氏は「声掛けする上で、目当ての人材の手が空いているかは大事な情報だ。ただ、データベースは個人情報の塊で、運用は慎重を期する必要がある。今回のような合弁会社の形を取れば、ミスミだけでなく当社人材も運用に関与するため、Ohgiのデータベースをより柔軟に活用できるようになるだろう」と語る。
さらにDTダイナミクスでは、ミスミやCCTの企業文化にとらわれず、エンジニアが能力を開発、発揮できる環境づくりや、より優秀なエンジニアを採用するための評価、報酬制度の構築を進める方針だ。これらの人材にDT、ミスミとCCTの両社から出向したITエンジニアが加わり、meviyの開発に一体となって取り組んでいくことになる。
一方で吉田氏は、合弁会社設立に当たり注意している点もあるという。ミスミとCCT間でのカルチャーギャップの問題だ。吉田氏は「ミスミはもともと機械部品や金型部品を手掛ける製造業であり、CCTはシステム開発を手掛ける会社だ。評価制度など企業文化が異なるところがある。これをそのままにして、1つのサービスを開発していくのは大変だ」と説明する。ただ、ミスミとCCTは長年にわたりmeviyを共通言語にしつつ、ビジネスを進めてきた経験があるため、「これまでの付き合いの中で、両社ともにある程度カルチャーフィットの素地は既にできている」(吉田氏)とも語った。
今後DTダイナミクスで予定するmeviyの開発計画について、道廣氏は「3D認識可能な対象範囲を拡大する他、UI(ユーザーインタフェース)の磨き込みを行う。さらに顧客の求める機能を実装後、修正とデプロイのサイクルを迅速に回すため、ソースコードをデリバリーする仕組みも整備する」と語った。加えて、運用保守業務を効率化するため、AWSなどが提供するマネージドサービスの活用も推進する。
今後の展望として吉田氏は「今回のDTダイナミクス設立を、ミスミ全体におけるIT企業化を加速するきっかけとしたい。製造業が海外で戦うには、デジタルという武器を使いこなせるかがポイントになる。合弁会社を設立するという取り組みが製造業における、1つのモデルになればいいと思う」と語った。
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