電動ブレーキブースターを日本で生産、需要をけん引するのは日系自動車メーカー安全システム

ボッシュは2022年9月20日、栃木工場(栃木県那須塩原市)で電動ブレーキブースター(倍力装置)「iBooster」の生産を開始すると発表した。同年11月から本格的な出荷を開始する。軽自動車にも搭載可能な小型版も生産する。

» 2022年09月21日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 ボッシュは2022年9月20日、栃木工場(栃木県那須塩原市)で電動ブレーキブースター(倍力装置)「iBooster」の生産を開始すると発表した。同年11月から本格的な出荷を開始する。軽自動車にも搭載可能な小型版も生産する。

 栃木工場は1990年に設立して以来、四輪車向けの横滑り防止装置(ESC)や四輪車/二輪車向けのABS(アンチロックブレーキシステム)などブレーキ関連製品を製造してきた。栃木工場で電動ブレーキブースターの生産を開始するに当たって、ドイツと同様の最先端の自動化技術を導入するとともに、製造設備に30億円を投資した。

電動ブレーキブースターを日本で生産する[クリックで拡大]

 エンジンの吸入負圧が低いハイブリッド車(HEV)やエンジンがなく負圧が発生しない電気自動車(EV)が普及するのに伴い、電動ブレーキブースターの需要が高まっている。ボッシュは電動ブレーキブースターのグローバル生産を現在の年間800万台から2026年には1100万台に拡大する計画だ。このうち、6割が日系自動車メーカー向けになると見込む。

 栃木工場での電動ブレーキブースターの生産台数は、2023年に100万台、2026年に130万台、2029年に150万台と見込む。日本で部品を仕入れ、日本で生産される車両向けに生産するのが基本だが、生産能力に余裕があればボッシュの他の電動ブレーキブースターの生産拠点にトラブルがあった際に代わって供給する役割も担う。

1年半で生産準備完了

 iBoosterは世界各地で生産している。メキシコでは北米向け、ドイツとポーランドからは欧州向け、中国ではアジア向けという生産体制だった。5カ所目の生産拠点として日本が加わったことにより、日本の自動車メーカー向けの供給やサービスを改善していく。また、海外4カ所のiBooster生産拠点で発生した問題点や課題に対する解決策を織り込んだ最新の生産ラインとなった。海外4拠点との間で毎月の改善事例の共有も行う。

 栃木工場では、新しい建屋にiBoosterの生産ラインを設けた。ボッシュが2017年から展開している通常版と小型版を混流生産する。小型版は通常版と同じコンセプトで設計されているため、同じ生産ラインで生産できる。小型版を生産できるのは栃木工場とポーランドのみだ。栃木工場では3割程度が小型版になると見込むが、混流生産なので比率は0:100から100:0まで柔軟に対応できる。

 iBoosterの組み立て工程はグローバルの各拠点で共通だが、ある工程を手作業で行う拠点もあれば、設備で自動化する拠点もあり、自動化の度合いが異なる。栃木工場にはドイツと同じ自動化設備を導入し、他の拠点と比べても高い自動化率を達成した。パレットから部品を取り出して生産ラインに投入する作業(デパレタイズ)を自動化する設備が複数導入されている。組み立て工程は50種類あるが、1ラインに立つのは5〜6人だ。

 当初は3年かけて準備する予定だったが、1年半の期間で2022年8月末に生産準備が完了した。準備期間を大幅に短縮できたのは、トレーニングや設備の製造などを並行して進められたためだという。また、横滑り防止装置のようなカーエレクトロニクス関連をすでに生産していることも早期の立ち上げに貢献した。設備を2022年3月にドイツから日本に空輸する計画がロシアによるウクライナ侵攻で船便に変更されるなどのトラブルも乗り越えた。

栃木工場に新設した電動ブレーキブースターの生産ライン(左、右)。前半でメカ部品を組み付けた後、ソフトウェアの書き込みやキャリブレーションなどを行う[クリックで拡大] 出所:ボッシュ
生産ラインへの部品供給なども含めて自動化を推進した(左)。自動車メーカーごとに異なる形状の部品もあるため完全な自動化は難しい(右)[クリックで拡大] 出所:ボッシュ

なぜ日系の比率が高い?

 iBoosterは日系自動車メーカーからの需要を大きく見込んでいる。メガサプライヤーが手掛ける電動化に対応する部品としては、日系自動車メーカー向けが6割を占めるのは偏っているようにみえる。

 もともと、iBoosterはHEVやEV、プラグインハイブリッド車といった電動車だけでなく、駆動にモーターを使わないエンジン車でも採用されている。エンジン車で電動ブレーキブースターを必要とするのは、NCAP(新車アセスメント)で求められる衝突被害軽減ブレーキを達成するための昇圧性能を得るためだ。

 ブレーキの冗長性確保に対する日系自動車メーカーの要求もiBoosterの需要を後押ししている。冗長性の確保は地域を問わず自動車メーカーに共通しているが、日系自動車メーカーはブレーキが失陥した際のバックアップ性能への要求が特に高い。そのため、ブレーキをかけられるデバイスとして電動ブレーキブースターと横滑り防止装置がセットで採用されているという。

 また、日系自動車メーカーからは、iBoosterがエンジン車向けのバキュームブースターと置き換えやすいことも評価されているという。現在はエンジン車のプラットフォームをベースにした電動車も多いためだ。バキュームブースターとiBoosterのすみ分けや、横滑り防止装置との統合など電動化の過渡期ならではのニーズを取り込む。

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