古典コンピュータでは不可能な計算が可能になるゲート方式量子コンピュータは、量子力学における量子重ね合わせ状態を応用し、0と1の重ね合わせの状態をとる「量子ビット」を操作して演算を行う。この量子ビットを実現する方式としては、単一イオンを電極などで制御してレーザーで操作する「イオントラップ方式」や、中性原子をレーザーでトラップし操作もレーザーで行う「中性原子方式」などがあるが、実用化という観点で最も広く利用されているのが超伝導量子コンピュータに用いられている超伝導回路方式である。
超伝導量子コンピュータの量子ビットで最も標準的なのが、非線形インダクターであるジョセフソン結合とキャパシターで構成されるトランズモン量子ビットだ。トランズモン量子ビットは、特性周波数を固定した周波数固定トランズモンと、ジョセフソン結合に磁束を印可して一定の範囲で特性周波数を可変できる周波数可変トランズモンがある。
2つのトランズモン量子ビットの間をつなぐ結合器については、キャパシターでつなぐ固定結合器が一般的だったが、量子計算の速度と精度を進める中で周波数可変トランズモンの構造を応用した可変結合器が用いられるようになっている。実際に超伝導量子コンピュータの研究開発で先行する米国の3社は、固定結合器から可変結合器に路線変更し、性能改善を果たしている。
ただし、これら3社の可変結合器はシングルトランズモンカプラであり、特性周波数とクロストークエラーについての課題があった。東芝の考案したダブルトランズモンカプラは、磁束を調整することで量子ビット間の結合を完全にオフにできるとともに、構造がシンプルな周波数固定トランズモンを量子ビットとして採用し、量子ビット間の周波数差を700MHzと広く確保することでクロストークエラーも抑制できている。周波数安定性とクロストークの抑制の両立によって、99.99%という高い精度につなげたことになる。
なお、今回の研究成果は、米国物理学会の学術論文誌「Physical Review Applied」に2022年9月15日付け(現地時間)で掲載された。
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