AWSジャパンが量子コンピューティングサービス「Amazon Braket」や、量子コンピュータの技術動向について説明した。Amazon Braketは「全ての開発者、科学者の手に量子コンピューティングを」というコンセプトのフルマネージドサービスで、AWSの他のサービスと同様の手軽さで利用できるという。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は2021年5月18日、オンラインで会見を開き、量子コンピューティングサービス「Amazon Braket」や、量子コンピュータの技術動向について説明した。Amazon Braketは「全ての開発者、科学者の手に量子コンピューティングを」(AWSジャパン シニアスペシャリスト ソリューションアーキテクトの宇都宮聖子氏)というコンセプトの下で、設計からテスト、実行までフルマネージドなサービスであることを特徴としており、AWSの他のサービスと同様の手軽さで利用できるという。
量子コンピュータの研究開発では、米国のIBMやグーグル(Google)、マイクロソフト(Microsoft)の他、国内でもNECや富士通が注力していることが知られている。大手クラウドベンダーであるAWSも、カリフォルニア大学に隣接する量子研究センター「AWS Center for Quantum Computing」を設立するなど量子コンピューティングのハードウェアとソフトウェアの両面で開発を加速している。
AWSジャパンで機械学習や量子コンピュータを担当する宇都宮氏は「現時点の量子コンピュータ技術で注目されているのが『NISQ』と呼ばれるハードウェアでのアプリケーション開発だ」と語る。このNISQは、ノイズあり中規模量子デバイス(Noisy Intermediate-Scale Quantum)の略語で、50量子ビット以下となる従来の古典コンピュータでシミュレーション可能な領域や、まだ開発までに時間がかかるであろう誤り訂正が前提で10万量子ビット以上の大規模な領域ではない中間の領域を指す。NISQでは、量子コンピュータと古典コンピュータそれぞれが得意な計算をハイブリッドに割り当てることで、現時点で開発途上である量子コンピュータのアプリケーション開発を行える。
多くの企業は、量子コンピューティングが将来的に大きなブレークスルーを生み出すことを期待しているが、現時点ではそういったブレークスルーを生むような量子コンピュータはまだ開発できていない。しかし、NISQを用いて量子コンピューティングに取り組むことで、現段階から有望なアプリケーションを先行的に開発できるというわけだ。また、量子アニーリングを用いた組み合わせ最適化問題のように、実用化につなげやすいアプリケーションもある。
Amazon Braketは、このNISQを用いた量子コンピューティングに向けた取り組みのハードルを下げることを目的に開発された。「量子コンピュータごとに断片化した開発ツールや、量子コンピュータへのアクセスや契約の難しさ、量子コンピュータのシミュレーションに求められる専門知識や大規模な計算リソースなどが要因になって、量子コンピュータは使いやすいとはいえない状況にある。Amazon Braketでこの高いハードルを下げる」(宇都宮氏)という。
Amazon Braketでは、3社の量子コンピュータを目的に合わせて選べるようになっている。ゲートベース量子コンピュータは、超伝導量子ビットを用いるRigetti(リゲッティ)とイオントラップ量子ビットを用いるIonQ(アイオンキュー)を利用できる。Rigettiは31量子ビットで結合は部分的、IonQは11量子ビットだが全結合が特徴になっている。量子アニーリングは、D-Waveが提供する2048量子ビットの「DW_2000Q_6」と5760量子ビットの「DW_Advantage」を利用可能だ。また、AWSのクラウド用いるシミュレーターとして34量子ビットの「SV1」と50量子ビットの「TN1」がある。
開発環境はフルマネージドの「Jupyter Lab」を用意しており、設計からテスト、本番環境実行までをカバーする。また、Pythonベースの「Amazon Braket Python SDK」により、RigettiやIonQ、D-Waveなどの量子コンピュータに依存しない回路設計を行える。また、量子コンピュータのアプリケーションとして注目を集める量子機械学習(QML)への対応も進めている。
価格は、利用する量子コンピュータと、タスク(task)、ショット(shot)によって決まる。宇都宮氏は、シミュレーターのSV1で回路をシミュレートする場合で5.175米ドル、D-Waveで量子アニーリングを実行する場合で0.68米ドル、Rigettiで量子アルゴリズムを実行する場合で3.80米ドルなどの例を示した。
なお、Amazon Braketのユーザー事例としては、あいおいニッセイ同和損害保険の米国法人が行った新しい保険商品の開発に向けた自動車テレマティクスデータの処理や、フォルクスワーゲングループ(Volkswagen Group)、フィデリティ応用技術センター(FCAT)の金融業界向けのPoC(概念実証)などがある。
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