多くの3D CADではオプションとしてCAE機能が用意されているが、多くの方が「線形解析」での利用にとどまっており、「非線形解析」にまで踏み出せていない現状がある。本連載では、構造解析でも特に非線形解析にフォーカスし、初心者向けに分かりやすくその特長や活用メリットなどを紹介する。連載第4回では、3つの非線形性のうちの1つ「材料非線形性」について取り上げる。
今回は「材料非線形性」の話をしていきたいと思います。前回取り上げた「幾何学的非線形性」よりも、もう少し直感的に分かりやすい内容ではないかと思いますが、材料非線形性も“非線形性に対する寄与”という意味では非常にインパクトのあるものです。
有限要素法(FEM:Finite Element Method)のプログラムを用いてシミュレーションを行う際に必要となるものが“材料物性”であり、部品の強度設計においてよく使用される線形弾性解析では「ヤング率」と「ポアソン比」が必須となります。
連載第2回で、剛性マトリクスの構築にヤング率とポアソン比が含まれていることも紹介しました。ヤング率もポアソン比も材料に固有なある定数を与えますから、応力とひずみの関係は1対1の比例関係で表現できます。つまり、このような材料が「線形」の材料であり、線形解析で扱うのはこの材料のみということになります。
ところで、解析の範囲を「非線形」にまで広げたとき、有限要素法のソフトで扱うことができる材料の種類はさまざまです。比較的使用頻度の多い材料としては「弾塑性材料」や「超弾性材料」、あるいは「粘弾性材料」などがあります。また、クリープのような挙動を示すものも非線形の材料となります。なお、粘弾性やクリープは材料の物性が“時間”に依存します。
これらがどのように非線形の挙動を示すのかは後ほど説明しますが、あえてざっくりと言ってしまえば、「線形弾性の材料以外は、全て非線形の材料」だといえます。
では、一つ一つの材料をもう少し詳しく見ていきましょう。ちなみに、ここで紹介するのは、あくまでもその材料がどういったものであるかの“さわり”のみとなりますので、厳密な説明を知りたい方は専門書などを参照してください。
線形弾性材料とは、応力とひずみの関係が線形である材料のことです。いうなれば、「フックの法則」が成り立つ材料となります。今回のトピックは、非線形材料なのでこの材料の詳細は省略しますが、線形かつ弾性の材料なので、変形しても除荷されると載荷前の元の形状に戻るという特徴があります。
金属やある種のプラスチックは、一般的に載荷を始めてからしばらくは線形弾性の挙動を示しますが、“ある応力”の値を超えると、元の形状に戻らない塑性の挙動を示します。そして、この領域になると応力とひずみの関係が非線形になります。さらに荷重をかけ続ければ、最終的には破断に至るまで塑性変形が続きます。ここで言う“ある応力”、つまり弾性領域から塑性領域になるときの応力のことを「降伏応力(Yield Stress)」と呼びます。
部品設計において線形弾性解析を実施する場合、ソフトによってはヤング率やポアソン比の値を入力するのではなく、データベースから材料を選択すればよいものもあります(例えば、「SOLIDWORKS Simulation」や「Autodesk Inventor Nastran」など)。しかし、こうしたソフトでも材料を選択する際に物性値の各値を確認してみると、降伏応力や最大引張応力などの値も定義されている場合が多いと思います。
ただ、線形弾性解析の場合、本来計算には降伏応力は必要のない値です。そもそも、応力やひずみがどれだけ大きくなっても線形弾性挙動を示すのですから……。では、この値をいつ使用するのかといえば、ポスト処理のタイミングです。具体的には、降伏応力と相当応力の比で示される安全率の表示に使われます。従って、線形弾性解析における降伏応力の値は、あえていえば「ポスト処理に使用する」ということになります。
しかし、弾塑性解析の場合、シミュレーションにおいてはその応力の数値を超えたときに挙動が弾性から塑性に変わるので、降伏応力は重要な数値になります。ということで、弾塑性材料を使った解析において必要となる物性値や設定についてのお話をしていきたいと思います。
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