ソニーケミカルを出自とするデクセリアルズは、シェア90%以上のドライ式反射防止フィルムにAIアルゴリズムベースの外観検査を導入するなどスマート工場プロジェクトを推進している。
半導体や液晶ディスプレイといった電子デバイス市場でのシェアが低下して久しい日本の製造業だが、製造装置や材料では優位な技術を持った企業が多数存在している。2021年から熱を帯び始めた政府による先進半導体分野への投資でも、製造装置・材料メーカーへの支援の姿勢を鮮明にしている。
デクセリアルズは、これら電子デバイスの製造に用いられる材料で存在感を発揮している企業の一つだ。ソニーの電子材料部門だったソニーケミカルが、日本政策投資銀行(DBJ)などの出資によりスピンアウトする形で2012年10月に独立した。光学フィルムや異方性導電膜(ACF)、光学弾性樹脂(SVR)、表面実装型ヒューズなどを主力製品として展開してきたが、2019年に社長に就任した新家由久氏が推進する5カ年の中期経営計画の下で事業構造改革を進めて財務体質を大幅に改善しており、直近の2021年度の連結業績では売上高が前年度比45%増の約957億円、営業利益が同2.3倍の約266億円となっており、2022年度の売上高は1000億円の大台を超えて1100億円を見込んでいる。
2021年度の飛躍的な業績の伸長に大きく貢献したのが、前年度比約2倍の売上高となった光学フィルムのうち、ノートPCや車載ディスプレイなどへの採用が拡大している反射防止フィルムだ。デクセリアルズ オプティカルソリューション事業部 商品開発部 担当部長の小野行弘氏は「一般的な反射防止フィルムは塗布工程によって反射防止層を成膜するウェット式で製造されるのに対して、当社はスパッタリング技術により1nmの精度で均一な成膜を可能にするドライ式を採用している」と語る。
均一に成膜できるドライ式は反射防止フィルムの性能向上をも可能にした。反射防止フィルムは、表面に低屈折率の反射防止層を形成することで外光の反射を低減している。ウェット式は成膜精度の制約から基材フィルムとの密着層の上に低屈折率層を積層した2層構造になるのが一般的だ。一方、ドライ式の場合、低屈折率層の密着層の上に高屈折率層と低屈折率層を交互に2層ずつ積層した5層構造が可能になる。この構造の違いによって「性能指標である反射率は、ウェット式の場合1%程度が限界だが、ドライ式を採用する当社の製品は0.5%以下を実現できている」(小野氏)という。
性能面で優位性のあるドライ式だが、反射防止フィルムの製造ではウェット式が広く用いられてきた。これは、フィルム製品の量産に有利なロールtoロール方式と組み合わせやすいからだ。デクセリアルズの反射防止フィルムは、ドライ式をロールtoロール方式で実現しており、製品の性能と品質、生産性を高いレベルで実現できている点が大きな優位性になっているのだ。実際に、ドライ方式を採用する反射防止フィルムの市場では90%以上という圧倒的なシェアを誇っている。
デクセリアルズの反射防止フィルムの源流は、ソニーのテレビなどに用いられていたブラウン管の反射防止処理に用いられていた金属蒸着技術にある。その後、ディスプレイ技術が液晶パネルに移行していく中で、反射防止フィルムの生産において大面積への高精度な成膜ができロールtoロール方式との組み合わせも可能なスパッタリング技術の開発を進めた。1997年にはソニー社内で開発を完了し、2002年から当時のソニーケミカルの鹿沼事業所(栃木県鹿沼市)で反射防止フィルムの量産を開始している。
そして、デクセリアルズとして独立し事業拡大を目指す中で、2016年10月には新拠点となる栃木事業所(栃木県下野市)で反射防止フィルムの量産を始めた。2021年度の業績にもある通り、同社の反射防止フィルムへの需要が急増しているため、栃木事業所における生産体制の増強も決めている。当初は2024年度の稼働をめどとしていたが、1年計画を前倒して2023年4月の稼働を開始する方針である。投資金額は約80億円で、反射防止フィルムの生産能力は1.5倍に増強されることになる。
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