東芝は再生可能エネルギーの出力や需要の変動による停電の発生を防ぎ、マイクログリッド(小規模電力網)の安定稼働を実現するGFMインバーターの効果を実機検証したと発表した。GFMインバーターを太陽光発電に適用し、系統周波数の低下を約3割抑制、充電時においても系統周波数の低下を7割抑圧することを確認した。
東芝は2022年8月26日、再生可能エネルギーの出力や需要の変動による停電の発生を防ぎ、マイクログリッド(小規模電力網)の安定稼働を実現するGFM(Grid Forming)インバーターの効果を実機検証したと発表した。GFMインバーターを太陽光発電に適用し、系統周波数の低下を約3割抑制、充電時においても系統周波数の低下を7割抑制することを確認した。
マイクログリッドは非常時に太陽光発電や非常用発電機、蓄電池などを用いて一部の地域内で電気を地産地消する仕組みをいう。2019年の台風15号によって千葉県で長期の停電が発生した際、睦沢町のむつざわスマートウェルネスタウンはガスコージェネレーション発電機を稼働させるなどし早期の電気復旧に成功して注目を集めた。
こういった自然災害など緊急時への耐性向上の観点などから、近年、マイクログリッドに関心が高まっている。2022年4月には、改正された電気事業法が施行され、既存の配電網を新規参入業者が運用可能になる配電事業が創設された。政府の地域脱炭素ロードマップでは、2030年度までに100カ所の脱炭素先行地域をつくるとしており、今後マイクログリッドの拡大が見込まれている。
電気は需要と供給のバランスが保たれることで系統周波数が一定に保たれている。需給のバランスが崩れ、系統周波数に大きな変動が起こると、保護リレーが発動して停電につながる可能性がある。
火力発電や水力発電など大型の回転体を有する発電機は慣性力があるため、瞬時的な変化に耐えることができるが、マイクログリッドに用いられる太陽光発電など回転体がない再生可能エネルギーには慣性力がなく、再生可能エネルギーの割合が増えるにつれて停電のリスクが高まる恐れがある。
系統周波数の変動を抑制する電力品質維持には2015年度で1773億円投じられており、再生可能エネルギーが5〜6割を占めるシナリオでは51〜129億円程度の追加費用が必要になると試算されている。
今回、東芝は疑似慣性力を持つ制御アルゴリズムを組み込んだGFMインバーターを太陽光発電や蓄電池に適用して実機検証した。
まず、内燃機関を有する125kCAディーゼル同期発電機と太陽光発電に適用した20kWのGFMインバーターを実証用マイクログリッドで並列運転して検証したところ、負荷変動に対して20Kwの従来型インバーターは49Hzまで系統周波数が下がったが、GFMインバーターでは49.3Hzまで変動を抑えることができた。
また、放電だけでなく充電においても慣性力を持つかも検証した。内燃機関を有する125kCAディーゼル同期発電機と蓄電システムに適用した20kWのGFMインバーター5台を実証用マイクログリッドで並列運転したところ、負荷変動に対して従来型インバーターでは2.2Hzの系統周波数の変化が起きたが、GFMインバーターは0.6Hzで変動を抑制した。
さらに、GFMインバーターの慣性力を調整することで、インバーターの瞬時的な負荷を3割低減し、各発電機の負荷分担を均等にすることにも成功した。
東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリー エキスパートの司城徹氏は「再生可能エネルギーの出力変動や需要の急変による停電の発生を防ぎ、マイクログリッドの安定稼働を実現するGFMインバーターの効果を実証した。内燃機関を有するディーゼル同期発電機と並列運転したマイクログリッドの検証は世界初と考えている」と語る。既存のGFMインバーターとハード自体は変わらず、ファームウェアの切り替えだけで導入でいるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.