先にも述べましたが、スコープ3の算定範囲は非常に幅広く、GHG排出量の削減には取引先や輸配送業者、顧客企業や消費者などさまざまなステークホルダーとの協働が求められます。このため削減に向けた取り組みは一筋縄ではいきません。しかし、製造業がカーボンニュートラルを実現する上では、スコープ3の排出量削減は絶対に避けては通れない道と言えます。製造業ではスコープ1〜3の中で、スコープ3の排出量が最も多くなるからです。
特に製造業では、スコープ3の中でもカテゴリー1である「購入した製品・サービス」や、カテゴリー11の「販売した製品の使用」が、排出量全体において大きなウェイトを占めます。例えばパナソニック ホールディングスは、2020年度のサプライチェーン排出量実績である約1億531万トンの内、8割超を占める約8593万トンがカテゴリー11からの排出だったと公表しています。
この他ホンダは、2020年度のサプライチェーン排出量実績である約2億5448万トンの内、カテゴリー11の排出量が約2億2887万トンであったとしています。大手消費財メーカーである花王は、2020年のスコープ3排出量である約1118万トンの内、カテゴリー1が約420万トン、カテゴリー11が約465万トンでした。業種を問わず、カテゴリー1と11が大きな存在感を持つ傾向が伺えます。
スコープ3の排出量削減においては、カテゴリーごとの個別対策を並行して進める必要があります。一例を挙げれば、カテゴリー11の削減に当たっては、製品の省エネや電動化を実現する仕組みを実装していくことが解決策となり得ます。
カテゴリー1では、サプライヤー選定が重要になるかもしれません。現在のサプライヤーよりも、GHG削減に向けて省エネや再生可能エネルギー活用を積極的に推進するサプライヤーがいれば、調達先をそちらに切り替えたほうが、自社のCO2削減目標を達成する上で有利に働く可能性があります。また、カテゴリー4と9の輸配送に関わる排出量の削減策では、同業種の複数メーカーによる貨物を共同で運ぶ共同配送なども選択肢としてあり得るでしょう。国内でも、大手食品メーカーの一部で取り組みが進んでいます。
ここで挙げた例からも分かる通り、スコープ3の排出量削減は、調達、設計、製造、営業、販売、研究部門など、複数部門間で協調して進める必要があります。また、社外的な取り組みで言えば、サプライヤーとの連携も重要です。サプライヤーにおけるGHG削減の取り組みについて実態をヒアリングする、より一層の省エネ推進を要請するなど、さまざまな働きかけが選択肢としてあり得ます。反対にサプライヤーの立場からすると、今後、GHG削減の達成度合いを取引先選定の基準にするメーカーが増えかねないということにもなります。取引先の動向には十分気を配っておく必要があるでしょう。
しかし、こうした工夫に先立って、初めに取り組まなければならないのは、サプライチェーン全体の排出量を正確に算定、集計して自社の現状を把握することです。自社において排出量の多いホットスポットはどのカテゴリーなのか。これを理解しなければ、対策をしっかり講じられません。
スコープ3のGHG排出量は当該カテゴリーにおける企業の活動規模を示す「活動量」に、活動量当たりのCO2排出量である「排出原単位」を掛け合わせて算定されます。カテゴリーごとに何の指標を活動量として採用すればよいのか、排出原単位はどのデータを参照すれば良いか、算定期間はいつまでか、などを1つずつ確認していきましょう。これらの作業は環境省と経済産業省が発行する「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」など、各種資料や同業他社の先行事例を参照しながら、取り組んでいく必要があります。
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