脱炭素化に向けた各種施策を実行する企業が増えている。ただ製造業ではこれまでにも環境負荷軽減のための取り組みをさまざまに展開してきた。+αの一手として何を打つべきか。セールスフォース・ドットコムの鹿内健太郎氏に話を聞いた。
CO2など温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラル達成に向けた取り組みが、大きく注目を集めるようになり久しい。現在、産業界では各企業がCO2削減目標の設定や、実現に向けた施策を次々に打ち出す動きが強まっている。特に工場稼働などでCO2排出量が多くなりがちな製造業では、他業界よりも具体的かつ強力な取り組みが期待されているといえるだろう。
ただ、製造業はこれまでにも新素材や技術開発、生産過程の工夫、サプライチェーンの最適化などを通じて、CO2削減や省エネルギー化など環境負荷低減に向けた取り組みを継続的に行ってきた。セールスフォース・ドットコム インダストリーズトランスフォーメーション事業本部 製造・ハイテク業界担当マネージャーの鹿内健太郎氏は「国内製造業の多くは、既にある程度CO2削減に向けた対策を実行している。世論の流れでさらなる追加対策の必要性が高まっているが、正直なところ、『これ以上何をすればいいのか』と悩んでしまうのではないか」と説明する。
削減に向けた具体的な取り組みにはさまざまなパターンがあり得る。ただ、どのような対策を取るにしろ、先立って必要になるのが排出量や削減量の正確な測定だ。特に鹿内氏は「スコープ3」における排出量測定の重要性を指摘した。
スコープ3はGHGプロトコルで定められたCO2排出カテゴリーの内、製品やサービスの自社購入、部材や製品の輸配送、販売した製品の加工/使用/廃棄など、サプライチェーンの上流と下流を対象としたものである。
製造業各社の公開データを参照すると、スコープ3の排出量がサプライチェーン全体の8〜9割の排出量を占めている例も珍しくない。排出量削減を効果的に進めたければ、最も注視、注力しなければいけないカテゴリーだといえる。
一方で、鹿内氏は、「事業者自身の直接排出が中心になる『スコープ1』や、他社から供給された電気や熱、蒸気の使用による間接排出の『スコープ2』と比較して、スコープ3の排出量測定は十分に進んでいるとはいえない」と現状を指摘する。特にスコープ3は自社だけでなく、製品、サービスの調達先まで含む。万が一、CO2削減に向けた取り組みが不十分だと既存顧客に見なされてしまえば、取引停止を通知されることにもなりかねない。
鹿内氏は、水面下では既に顧客から「イエローカード」を提示された企業も出ているとして、「大企業のように内部留保があればまだしも、中小企業は取引停止が経営存続の事業リスクに直結する。また、近年では金融機関も融資先の環境対策を重視する流れが生まれている。経営リスクを最小限に抑えて自社にクリーンなイメージを持たせるためにも、自社と調達先のCO2排出量を正確に測定して開示する取り組みは必須だ」と語った。
ただ、スコープ3の排出量算定には輸配送に関わるトラックや飛行機、船舶など、自社以外の排出量データも収集しなければならず、多くの手間が掛かることが予想される。これについて鹿内氏は「現在当社内では、これらのデータを収集、可視化、開示するまでの過程を簡素化するツール、ソリューションづくりに向けた議論を進めている」と語った。国内での具体的な展開は、2022年の春時期以降になる見通しだ。
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