パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)が、同社グループで推進しているDXプロジェクト「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」について説明。同社 グループCIOの玉置肇氏は情報システム部門における「歴史と伝統の呪縛」について指摘するとともに「まずは情報システム部門の社員を幸せにする」と述べた。
パナソニック ホールディングス(以下、パナソニックHD)は2022年6月30日、オンラインで会見を開き、同社グループで推進しているDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクト「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」について説明した。
PXの大きな目的は「各事業会社のDX支援とグループ全体のIT経営基盤の底上げ」になる。このPXをけん引するのは、パナソニックHD グループCEOの楠見雄規氏に請われて2021年5月に社外からCIOとして入社した玉置肇氏である。玉置氏は会見の冒頭で「PXの前に、パナソニックの情報システムについて説明しておきたい。24万人の社員がいるこのパナソニックグループのCIOとして、なぜパナソニックと無縁の私が社外から来たのか、世界で約2700人、国内だけでも2000人いる社内の情報システム部門ではなく、社外の人間でなければならないのか。それは、現在の経営陣が情報システム部門を立て直さなければならないと判断したからだが、その原因の一つになるのが『歴史と伝統の呪縛』だ」と語る。
パナソニックの情報システム部門は、松下電器産業時代の1959年に導入したIBM製の電子計算機から始まる。1962年には本社に計算センターが発足し、1973年の電算計算システムセンターを経て、1984年には情報システム部門の前身となる情報企画が発足した。平成に入ってからは1993年に全販売店を結ぶPanaVAN(Value-Added Network)を展開するなど先進的な取り組みも行っている。中村邦夫氏がトップだった2000年には全社IT革新本部を設立して同氏がトップダウンでプロジェクトを推進。大坪文雄氏がトップだった2011年には、パナソニック、パナソニック電工、三洋電機の3社の情報システム機能を統合するプロジェクトが始まった。そして2015年、現在の情報システム子会社であるパナソニック インフォメーションシステムズ(PISC)が、パナソニックのコーポレート情報システム社(CISC)と統合して新たに発足している。
玉置氏は「松下電器産業の情報システム部門は『情報職能』と呼ばれるなど、ものすごい歴史と伝統のある組織だ。このため重たい。そして、パナソニック全体がかなり大きな組織であるが故に、情報システム部門も複雑で大きくなり、情報システム部門そのものが“王国”“宇宙”になっていた」と説明する。経営側と情報システム部門は歩調を合わせていく必要があるが、経営側は「ITがよく分からない」、情報システム部門も「きちんとやるからあまり口を出してほしくない」となり、玉置氏の指摘する“王国”が形成されていった。
一方で、情報システム部門は各事業部向けにさまざまなシステムを開発することが重要な業務になっている。ここでも「各事業部が喜ぶものを作り続けた。その方がお互いに気持ちもいい。ここで発生したのが内向きの重力だ」(玉置氏)。この内向きの重力は自らを守る力になり、世間のスタンダートやマーケットの標準から外れるようになってしまう。その結果として起こったことの例がクラウド化の遅れである。同氏は「相当クラウド化は遅れていたが、これは資産の償却が終わっていないなどの組織的な理由も背景にある。もし資産の償却をしようとすれば、経営側に話を持って行かねばならない。だからクラウド化せずに、自前でやる」と説明する。
サプライチェーン統合で必要になるマスターデータの標準化も進まなかった。「全体を見ればバラバラなことは明らかだが、誰も標準化しようとはしない。それはやったもん負けになるからだ。誰も幸せにならない。だから蓋をしておく」(玉置氏)。しかしながら、世界に2700人いる情報システム部門の人々はこの状況を知っている。同氏は「彼らの顔を見るとあまり幸せそうではない。PXでは、情報システム基盤を何とかしてほしいといわれてCEOの楠見に呼ばれてきたが、その前に情報システム部門の社員を幸せにしたい」と強調する。
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