人が生きるオートメーションへ、オムロンが新たな長期ビジョンと中期計画を発表製造マネジメントニュース(1/2 ページ)

オムロンは2022年3月9日、2030年をターゲットとした長期ビジョン「Shaping the Future 2030」とともに、2022年度(2023年3月期)〜2024年度(2025年3月期)の3カ年の中期経営計画を発表した。

» 2022年03月10日 12時45分 公開
[三島一孝MONOist]

 オムロンは2022年3月9日、2030年をターゲットとした長期ビジョン「Shaping the Future 2030」とともに、2022年度(2023年3月期)〜2024年度(2025年3月期)の3カ年の中期経営計画を発表した。

収益力は大きく向上も売上高や変化対応力は課題に

 オムロンが前回2011年に示した長期ビジョン「Value Generation 2020」では「感じる。考える。制御する。人と地球の明日のために。」をビジョンと位置付け、中期経営計画「VG2.0」では、ゴールとして「質量兼備の地球価値創造企業」と「売上高1兆円、営業利益1000億円」を掲げてきた。また、これらを実現するために「収益力の向上」「自走的成長の実現」「変化対応力の発揮」「サスティナビリティ経営の実践」「企業理念経営の実践とコーポレートガバナンス・統合リスクマネジメントの強化」という5つの取り組みを進め、一定の成果を残してきた。

 収益力の向上についてはポートフォリオの入れ替えなどを進め、注力事業である制御機器事業やヘルスケア事業の比率を高めた他、経営指標として置いている売上総利益率は2011年度の36.8%から2021年度には45.7%に成長している。投資資本利益率(ROIC)についても2011年度の4.8%から2021年度には9%以上に伸長。営業利益率も2011年度の6.5%から2021年度には11.6%へと大きく改善が進んでいる。

photo 「VG2.0」期間中の収益力向上の成果[クリックで拡大] 出所:オムロン
photo オムロン 代表取締役社長 CEOの山田義仁氏

 一方で自走的成長の実現として掲げた売上高の成長については、米中貿易摩擦やコロナ禍の影響、ポートフォリオの入れ替えによる車載事業の売却やバックライト事業の収束などにより、右肩上がりの成長というわけにはいかなかった。また、変化対応力についても、並行生産体制の構築やデジタル技術の活用による事業継続性向上などさまざまな手を打ち、コロナ禍でも2年連続で営業利益伸長を実現するなど一定の成果を残したものの、サプライチェーンの混乱による納期遅れの発生など「十分だったとは考えていない」とオムロン 代表取締役社長 CEOの山田義仁氏は語る。

 山田氏は今後に向けた課題として「変化を察知する力の向上やバリューチェーンの再構築により変化対応力をさらに向上させる他、価値創造による成長とM&Aによる非連続な成長の実現を進めることで自走的成長をさらに追求する。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)基盤構築の加速と完遂やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進により企業運営をさらに進化させる」と語る。

photophoto 売上高の推移(左)と変化対応力としての取り組み(右)[クリックで拡大] 出所:オムロン

人が活きるオートメーションでソーシャルニーズを創造

 これらを踏まえオムロンでは2030年をターゲットとした新たな長期ビジョンとして「人が活きるオートメーションでソーシャルニーズを創造し続ける」を掲げた。オムロンでは創業者の立石一真氏が1970年国際未来学会で発表した未来予測論「SINIC理論」を経営の羅針盤としているが、その中で現在は「最適化社会」のフェーズにあり、次に迎える「自律社会」に向けて、新旧の価値観がぶつかり合い、社会や経済システムのひずみが発生すると予測している。

photophoto SINIC理論(左)と現在の状況(右)[クリックで拡大] 出所:オムロン

 そこでこれらの変化で生まれるソーシャルニーズを満たすソリューションを、オムロンが培ってきたオートメーションの力で解決することを目指す。ビジョンで掲げる「人が活きるオートメーション」には3つの段階があると定義。1つ目が人の作業を担う「代替」するオートメーションで、2つ目が機械が人と共に働く「協働」のオートメーションだ。そして3つ目が、人の可能性を引き出す「融和」のオートメーションとなる。「人のコーチングにより能力を向上することを目指す卓球ロボットのフォルフェウスはまさにこの融和を象徴するものだ。同様の考え方を製造現場にも持ち込んでいく」と山田氏は語る。

photo オムロンが考える人が活きるオートメーション[クリックで拡大] 出所:オムロン

 また解決すべき社会課題として「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」を掲げ、インダストリアルオートメーション(制御機器)、ヘルスケアソリューション、ソーシャルソリューション(社会システム)、デバイス&モジュールソリューション(電子部品)の4つのドメインそれぞれで解決への取り組みを進めていく方針だ。

 制御機器事業では、「持続可能な社会を支えるモノづくりへの貢献」を創出する社会価値と位置付け、製造現場において生産性とエネルギー効率の最大化、人の可能性を最大限発揮できる製造現場の構築、業務プロセスおよびエンジニアリング領域の業務効率向上に取り組む。ヘルスケア事業では「循環器疾患の“ゼロイベント”への貢献」を掲げ、日常生活下でバイタルデータが測定できるデバイスの創出、医師の診断や治療の意思決定を支援するアルゴリズムによる遠隔診療サービス導入、新しい予防医療サービスの開発に取り組む。

 社会システム事業では「再生可能エネルギーの普及・効率化利用とデジタル社会のインフラ持続性への貢献」を掲げ、発電を安定化させる制御システムの提供と現場システムの効率的な運用を支援するマネジメント&サービスシステムの開発、社会インフラ全体の運用効率向上を進めていく。電子部品事業では「新エネルギーと高速通信の普及への貢献」を掲げ、機器の安全性を高めるデバイスの創出と安定した接続を可能とする高周波対応デバイスの創出、環境負荷の低いデバイスの創出に取り組む。

 また、各ドメインで「モノ」売りだけを中心とするビジネスではなく、パートナーとの共創も含めモノとサービスを組み合わせるリカーリング型ビジネスの拡大を進めていく方針だ。これらのサービス化への動きと合わせて、データを基軸とした価値創造なども推進する。自社のデバイスやサービスから生成されるデータと他社データを連携させるデータプラットフォームを構築しそのデータの利活用により新たなソリューションを創出する取り組みを進める。その一環としてヘルスケアソリューション領域では、2022年2月に医療統計データサービスを展開するJMDCと資本業務提携を行い、オムロンのデータとJMDCのデータを組み合わせたヘルスデータプラットフォームの構築を進める。

photo データを基軸とした価値創造のイメージ[クリックで拡大] 出所:オムロン
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