400海里、40時間の実証航海で見えてきた無人運航の実力船も「CASE」(4/4 ページ)

» 2022年03月08日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]
前のページへ 1|2|3|4       

船酔いするほどの荒れた海で、航海時間の99.7%を無人航行

 「すざく」による無人運航の実証実験では、「開発した無人運航システムの機能を用いて東京港、津松阪港の航行を完遂できること」を目標に設定していた。実証実験期間中は周囲に多くの他船が航行する中での航海となり、特に輻輳海域として懸案していた東京湾(浦賀水道)や伊良湖水道では、電子海図に記録された航跡から多くの船舶と衝突する可能性がありながらも、適宜安全な航路をシステムが立案し航行していった過程が示された。

【日本財団提供】実証実験では東京湾と伊勢湾の輻輳海域を航行した[クリックで拡大] 出所:日本財団

 実証実験期間の海象条件は悪く、風力は30.7ノット(風速16.8m)、うねりの高さが2.5mと時化(しけ)ており動揺角は左右合わせて13度近くに達するという状況だ。乗船していた機器オペレーターが船酔いで動けなくなり実験の継続が危ぶまれたほどだったが、無人運航を継続することができたという。

 実証実験の操船では、スラスターを使った自力離桟の後(システムとしては完全自動離桟も可能)、岸壁から40m離れた時点から無人運航システムを有効にし、東京港や浦賀水道などの輻輳海域を無人運航で航行、東京港大井水産物ふ頭では自動着桟を成功させている。従来の自動着桟は事前にプロットした航路に従って岸壁までアプローチするが、DFFASシステムによる自動着桟では、岸壁直前で外部応力(周囲の風や潮流で船が流される影響)を取得、判断して最適な航路をリアルタイムで立案し、システムが選択した航路に従って自律で操船する。

【日本財団提供】自動離桟と自動着桟も実施。別の実証実験では自動着桟では飛翔型ドローンで係船策ガイドを船側から陸側に渡す実験も成功させている[クリックで拡大] 出所:日本財団

 実証実験中、往路は航海距離が207.5カイリ(384.3km)、航海時間が20時間10分で、そのうちDFFASシステムによる無人運航は19時間30分に及んだ。平均速力は10.3ノットで、避航回数は107回に上った。同様に復路は航海距離216.4カイリ(400.8km)で航海時間は19時間38分、無人運航は19時間34分と実に航海時間の99.7%が無人運航となった。平均速力は11ノットで避航回数は34回だった。

 桑原氏は、今回の実証実験で認識された課題として、船側システムと陸上システムをつなぐ通信システムにおいて、陸上と同等の安定したネットワークの構築が困難なことを挙げている。また、漁船などの小型船舶を避航する場合、避航航路は即時に立案できるが、立案した避航航路に対する自律操船の追従速度の不足も課題として挙がったという。

 実証実験でも、小型船舶に対する避航で、自律操船、設定航路変更による遠隔操船が間に合わず、船橋にいる船長による操船に切り替えたケースが、浦賀水道、伊良湖水道でそれぞれ1回ずつ起きている。

 MEGURI2040では、今回の「すざく」を含めて全6回予定している2021年度の実証実験を取りまとめ、2025年には実航路における無人運航船の本格導入を目指して今後の開発を進めていくとしている。

→次の記事を読む

→その他の『船も「CASE」』関連記事はこちら

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.