“船長の技”のクラウド共有で、海のデジタルトランスフォーメーションを実現する船も「CASE」(1/3 ページ)

日本気象協会とアイディアが2021年9月27日、「海事デジタルトランスフォーメーション」を推進するパートナーとして協業することを発表した。

» 2021年12月24日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

海事で進む船と陸の情報連携

 日本気象協会とアイディアが2021年9月27日、「海事デジタルトランスフォーメーション」を推進するパートナーとして協業することを発表した。

→その他の『船も「CASE」』関連記事はこちら

 船舶運航に関する情報をデジタル化してクラウドに格納することで、気象海象予報や最適航路の情報以外にも船舶位置情報やレーダーなどの舶用機器データ、カメラによる映像データ、機関データなど、船舶が保有するあらゆる情報を船舶側と陸上側で共有する。これにより、運航状況の可視化や過去航海のレビュー、航路の簡易評価、そして、将来的には船舶における燃費や温室効果ガス(GHG)の排出削減、そして航海内容の事後評価まで可能にするとしている。

 日本気象協会は天気予報に関する情報提供や、気象情報の利活用に関するコンサルティングなどを主な業務としていることは広く知られているところだ。その一環として海象予報に関する情報提供も業務範囲の中に入ってくる。一方のアイディアは、自社で開発した海事産業向けプラットフォーム「Aisea(アイシア)」と同名のスマートフォンアプリや、海事産業向けSaaS(Software as a Service)である「Aisea PRO(アイシアプロ)」の運用を通して、ユーザー所有の船舶の管理や航海情報、周囲の他船情報、航海ログなどの取得と蓄積、そしてその利活用に関するサービスを提供する。

 今回発表した日本気象協会との協業では、日本気象協会が提供している船舶向け最適航海計画支援サービス「POLARIS Navigation」で扱っている気象海象情報と、そこで求められた最適航路情報(航海後に使用可能)をAisea PROで利用できる「船舶動静情報マップ」に取り込むことが可能になった。

 もともとPOLARIS Navigationでは、気象海象予測情報(これは日本気象協会が提供している気象海象予測データ提供サービス「POLARIS Forecast」から得る)と、船舶ごとに算出した推進性能推定結果を用いて燃料消費量が最小となる最適航路を算出して提示している。船舶側で利用していたPOLARIS Navigationの情報を陸上の拠点でも利用するためにAisea PROと連携した。

 この連携によって、船舶側と陸上側(これは多くの場合、所属船舶の情報と動静を把握する必要がある運航管理セクション)で同じ気象海象情報を共有できるようになる。

海洋DXの第一歩は海陸クラウド共有から

 海事関係者以外において、アイディアという企業はなじみが薄いかもしれない。「世界中の船舶を対象にした海事産業向けプラットフォームAiseaの開発・運用」という事業を手掛けている。創業は2017年11月と若い企業だが、代表取締役社長の下川部知洋氏の実家は、釧路で戦前から港湾運送事業に携わる“老舗”海事企業で、下川部氏はその代表取締役社長でもある。それゆえに、海事に関する知識と経験は豊富だ。

今回話を伺ったアイディアの下川部知洋氏(中央)、取締役COOの浮田尚宏氏(左)、取締役CTO最高技術責任者の千葉福太朗氏(右)[クリックで拡大]

 もともとIT業界で技術者として働いていた下川部氏は、海事業界のIT化が著しく遅れている状況を自ら解決するためにアイディアを設立する。ただ、設立当初はクライアントのリクエストに応えるシステムを個別に開発していた。設立から1年半が過ぎようとしていた2019年、事業パートナーの東京海上日動火災保険から個別のシステムを訴求するよりそれらをまとめたソリューションとして紹介することを提案されたという。

 「東京海上日動には海事実務担当者から最前線のフィードバックが集まってきます。そのフィードバックに精通している東京海上日動から、『大事なのは個々の機能ではなく業務で使う人が使いやすい機能がまとまっていること、それが利便性につながる』というアドバイスを受けたのです」(下川部氏)

 ユーザーの声に応えて海事向けシステムを開発していく中で、それぞれのリクエストに応えて個別にシステムを開発するのではなく汎用的に多くの案件に対応できるプラットフォーム(=SaaS)という形になっていった。先に紹介したPOLARIS NavigationとAisea PROの連携でも、基本構造はPOLARIS Navigationで扱うデジタルデータをAiseaプラットフォーム上に取り込むだけですむ。共通のプラットフォームとすることで開発リソースは大幅に削減でき導入が容易になる。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.