“船長の技”のクラウド共有で、海のデジタルトランスフォーメーションを実現する船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2021年12月24日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

「ITは面倒」、ハードルをどう下げるか

 ただし、そのためには「船舶側で扱うデータをデジタル化する」「デジタルデータを流すネットワークを船舶側に構築する」「船舶側ネットワークと陸側にあるAiseaプラットフォームを安定して接続する」といった技術の確立も必要で、併せて従来のIT技術に加えて船舶や海事に関する技術にも熟知している必要がある。

 いま、デジタルトランスフォーメーション(DX)は多くの業種で重要な取り組みとして認識されている。それは海事業界でも同様で、所属船の管理から配船の自動化、メンテナンスの自動化から故障予兆の検出など必要性は急速に高まっている。その一方で、海事業界ではITの重要性が浸透しきっておらず、導入提案で理解を得ることが難しい一面もある。この場合も、共通のプラットフォームがあれば説明が容易で、かつ、Aisea PROは現場でユーザーと一緒に改善や変更も可能なので導入しやすいというメリットがあるという。

 アイディアでは、システムを導入する現場に開発担当者が直接赴き、クライアントの運用予定者にユーザーインタフェースのモックアップを使用してシステムを導入した場合のメリットを疑似体験してもらいながら、クライアントごとに異なる海事業界特有の現場事情に合わせて開発中のシステムをカスタマイズしていくという。

 このようなきめ細かな対応をすることによって、IT化やデジタルトランスフォーメーションを“面倒なこと”と敬遠しがちな現場担当者や海事業界でも導入するハードルを下げるのに効果を発揮していると説明している。

柔軟な共通プラットフォームで進む導入

 アイディアによる海事業界におけるデジタルトランスフォーメーションは、AiseaプラットフォームとAisea PROというクラウドソリューションをコアにした柔軟な形態もあって、クライアントごとに異なるリクエストに多種多様に対応できている。また、導入までの期間の短さや容易さも後押しし、幅広い用途で導入が進んでいる。冒頭で紹介した日本気象協会のPOLARIS Navigationとの連携も、POLARIS Navigationで扱うデータをAisea PROのクラウドで共有できる仕組みを提供することでさまざまな活用を可能にしている。

 シンプルさを生かした例としては、愛知県蒲郡市のヨットクラブ「ラグナマリーナ」での導入事例が挙げられる。

 Aiseaアプリでは、アプリの基本機能だけで、針路や速度、航行時間や航行距離や航行経路を表示する「航行計器」として利用できる他、地図上に自船の位置だけでなく周囲のAIS搭載船や他のAisea利用ユーザーの船舶位置を表示できる。加えて、それぞれのユーザーが確認した位置情報(浮遊物や漂流物、漁具用に敷設した一時的なブイなど航行に支障がある危険物の緯度経緯など)をプロットして記録しておくことも可能だ。

 ラグナマリーナでは自分たちのサイトからダウンロードしてすぐに利用できるiOS用Aiseaアプリの利用を推奨している。

AISで取得した船舶情報をクラウドで共有して確認できるのはAiseaの基本機能[クリックで拡大]
Aiseaのプロット機能ではユーザーがプロットしたエリアをクラウドで共有することで航行に危険な場所を知らせることが可能だ[クリックで拡大]

 Aiseaではこれらの位置情報や航海情報、そして、AIS情報(利用ユーザーの船舶がAISトランスポンダー、またはAISレシーバーを運用している場合、AISで送受信している自船の識別符号、船名、位置、針路、船速、行き先など)をクラウドで共有する。これにより、お互いの船が操船し続けた場合の衝突時間を予測してリアルタイムで表示し、かつ、警告情報を通知する「衝突予防機能」が提供できる。また、危険物としてプロットした位置やエリアに他のアプリ利用ユーザーの船舶が接近したときにアラートを発する機能も用意している。クラウドを介してVHF的に使える音声通話も可能にしている。

Aiseaのレーダーモードではクラウドで共有したAISデータを洋上目標として方位と距離を表示することでタブレットをレーダーのように使えるほか、衝突の可能性があるときにはアラートを出して注意を促すこともできる[クリックで拡大]
クラウドの共有機能を活用したバーチャル無線機能をつかえばVHFのような船舶間交信も実現できる[クリックで拡大]

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