AI実装に踏み込む米国FDAの医療機器ガイドライン策定計画海外医療技術トレンド(80)(2/4 ページ)

» 2022年02月10日 11時00分 公開
[笹原英司MONOist]

国際標準化をにらんだAI/MLベースのSaMD/SiMD指針策定

 本連載第67回で取り上げた、「2021会計年度CDRHガイダンス提案」と比較すると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急対応下で承認された医療機器の取り扱いに関連するトピックが目立つ一方で、SaMD/SiMDやAI/MLベースの機器ソフトウェアといった新技術に関わるルール作りも顕在化している。

 これに先立って、本連載第71回で触れたように、FDA・CDRH傘下のデジタルヘルス・センター・オブ・エクセレンス(DHCoE)は、2021年1月12日、「AI/MLベースのSaMD行動計画」(関連情報)を公表し、以下の5つの行動領域を設定していた。

  1. AI/MLベースのSaMD向けテーラーメイドの規制フレームワーク
  2. グッド・マシンラーニングプラクティス(GMLP)
  3. ユーザーに対する透明性を組み込んだ患者中心のアプローチ
  4. アルゴリズムのバイアスと堅牢(けんろう)性に関するレギュラトリーサイエンス手法
  5. リアルワールドパフォーマンス(RWP)

 その後FDAは、2021年10月27日、カナダ保健省(Health Canada)、英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)と共同で、「医療機器開発向けグッド・マシンラーニングプラクティス(GMLP):指導原則」(図1参照、関連情報)を公表している。

図1 図1 「医療機器開発向けグッドマシンラーニングプラクティス(GMLP):指導原則」[クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration (FDA)「Good Machine Learning Practice for Medical Device Development: Guiding Principles」(2021年10月27日)

 本指導原則は、これらAI/MLベースの製品固有の特性に対応するグッド・マシンラーニングプラクティスを構築するための基盤を築き、急速に進歩する領域における将来の成長を培うのに役立てることを目的としており、以下の10項目から構成される。

  1. トータル製品ライフサイクル(TPLC)を通して、学際的な専門知識が活用される
  2. 優れたソフトウェアエンジニアリングやセキュリティプラクティスが展開される
  3. 臨床研究の参加者やデータセットが、対象とする患者集団の代表者となる
  4. トレーニング用データセットは、テストセットから独立している
  5. 選択されたデータセットは、最善の利用可能な方法に基づいている
  6. モデル設計は、利用可能なデータに合わせて、機器の意図する使用を反映したものとする
  7. 焦点は、人間−AIチームのパフォーマンスに置かれる
  8. 検証は、臨床的に適切な状況下で、機器のパフォーマンスを証明する
  9. ユーザーには、明確で不可欠な情報が提供される
  10. 展開されたモデルはパフォーマンスのためにモニタリングされ、再トレーニングのリスクは管理される

 さらにFDAは、2021年11月14日、SaMD/SiMDの安全性・有効性評価に関わる「機器ソフトウェア機能向け市販前申請の内容:業界およびFDAスタッフ向けガイダンス草案」(関連情報)を公表し、同年12月22日には、デジタルヘルスデータ利活用にフォーカスした「臨床試験における遠隔データ収集向けのデジタルヘルス:業界、臨床試験依頼者およびその他のステークホルダー向けガイダンス草案」(関連情報)を公表している。

 なお、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)では、韓国が調整役を務める人工知能医療機器(AIMD)ワーキンググループが、2021年9月16日、「機械学習が可能にする医療機器−人工知能が可能にする医療機器のサブセット:重要な用語と定義」草案(関連情報)を公表し、パブリックコメントの募集を行った。2022年前半には、最終文書が公表される見通しである。米国およびカナダはAIMDワーキンググループのメンバーであり、英国は公式オブザーバーとなっている。日本も同ワーキンググループのメンバーであるが、AI/ML医療機器規制を巡る米国FDAの積極的な多国間連携策に対して、どのように対応するのか注目される。

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