さらにENISAは、2021年11月11日、NIS指令導入以後の保健医療セクターにおけるCSIRT機能の構築状況を分析した「保健医療セクターにおけるCSIRT機能」を公表した(関連情報)。
保健医療CSIRTに関する報告書の主な調査結果は以下の通りである。
これらを踏まえた上で、ENISAは以下のような提言を示している。
前述のIMDRF医療機器サイバーセキュリティ原則では、「6.0 医療機器サイバーセキュリティの市販後考慮事項」の中で、情報共有体制について触れているが、欧米と比較して日本の保健医療分野の場合、前提となるCSIRTやPSIRTの整備自体が遅れている。インシデント対応に関わる組織的連携体制の構築は、医療機器の市販前サイバーセキュリティ対策の観点からも急務となっている。
このようなENISAの動きと並行して、欧州議会の産業・研究・エネルギー委員会(ITRE)は、2021年10月28日、ネットワーク・情報システムの安全に関する指令の改正草案(NIS指令2)を採択した(関連情報)。その後同年12月3日、欧州理事会は、NIS指令2草案を承認したことを発表した(関連情報)。
新たなNIS指令2草案では、以下の3つの目標と具体策を掲げている。
域内市場全体の全ての公的・民間主体が、経済社会全体に対して重要な機能を満たしながら、適切なサイバーセキュリティ対策をとるように要求されることを保証するような規則を設定することによって、全ての関連セクターに渡り、欧州連合で広範囲に運営される事業体のサイバーレジリエンスの水準を高める。
i)デファクトのスコープ、ii)セキュリティおよびインシデント報告の要求事項、iii)国レベルの監督と法執行を統治する規定、iv)加盟国の関連する監督官庁のケーパビリティ、これらを調整することによって、既に指令の対象となっているセクターの域内市場に渡るレジリエンスの矛盾を解消する
i)監督官庁間の信頼の水準を高める対策をとる、ii)一層情報を共有する、iii)大規模なインシデントまたは危機が発生した際の規則や手順を設定する、これらによって、準備と対応に向けた共同の状況認識や集団的ケーパビリティの水準を向上させる
図1は、NIS指令とNIS指令2を比較したものである(関連情報)。
また、NIS指令2草案では、適用対象として、「不可欠な主体(Essential Entity)」と「重要な主体(Important Entity)」の2つのカテゴリーを設定している。個々のカテゴリーに含まれる主要な業種・業界は以下の通りである。
なお、企業規模については、上記の業種・業界の中で、総売上高1000万ユーロ以上または従業員数50人以上の企業・団体に拡大されることになっている。また、違反企業に対する制裁措置などについては、現行のNIS指令と同様に、加盟国当局の法制に委ねられる。
今後、NIS指令2は、欧州理事会と欧州議会との最終版に関する合意を経て、正式に発効となる予定である。その上で、発効後2年以内をめどに、NIS指令2に準拠した国内法制の整備を進めることになっている。
医療機器企業は、NIS指令2の適用開始後、「重要な主体(Important Entity)」のカテゴリーに該当することになる。また、クラウド型で医療ソフトウェアを提供する場合、「不可欠な主体(Essential Entity)」のデジタルインフラストラクチャが関係してくる。加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急対応時のような場合には、医療機器企業自体が「不可欠な主体(Essential Entity)」に該当する可能性が出てくる。
このような状況を考えると、EU域内で事業を展開する医療機器企業は、現行のCSIRTやPSIRTの組織体制を見直して、内部向けの迅速な緊急対応と、外部向けの情報共有・分析活動を両立できるようなリスクコミュニケーション活動の展開に向けた取組に着手する必要がある。加えて、これまで医療機器の市販後対策を担ってきたメディカルアフェアーズ部門も、CSIRT/PSIRT部門との連携を強化する必要があるだろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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