大企業も注目のプラズマ技術で家庭用美顔器を開発、美容スタートアップの挑戦越智岳人の注目スタートアップ(1)(2/3 ページ)

» 2021年11月29日 11時00分 公開
[越智岳人MONOist]

大手メーカーも交渉中の技術を独占契約

DENSHINDO 代表取締役の野村京氏(中央)と、取締役で営業面を担う張容氏(左)は同じ大学で学んだ留学生仲間。野村氏の夫でもある野村祐二氏(右)も顧問の一人として、DENSHINDOの経営を支えている DENSHINDO 代表取締役の野村京氏(中央)と、取締役で営業面を担う張容氏(左)は同じ大学で学んだ留学生仲間。野村氏の夫でもある野村祐二氏(右)も顧問の一人として、DENSHINDOの経営を支えている[クリックで拡大] 撮影:筆者

 高品質で、美しいデザインの美顔器を作りたい――。

 後にDENSHINDOの創業メンバーとなる張容氏は、大学院で野村氏からDENSHINDOの創業に誘われる。張氏は野村氏と同じく、中国人留学生として武蔵工業大学で学んだ後輩だ。卒業後は日本の上場企業で半導体、電子部品などの営業畑を歩む。ファーウェイ(華為技術)の日本法人の端末部門の立ち上げに関わり、日本の大手通信キャリア向けに、スマートフォン端末の導入や各セールスチャネルでの拡販などを経験した。その後、東日本大震災を機に再生エネルギー業界に転職し、大手太陽光発電メーカーであるJinko Solar(ジンコソーラー)の日本現地法人の立ち上げに携わった。張氏もグロービズ経営大学院のMBAコースに入学し、そこで偶然にもかつての同窓生だった野村氏と再会していたのだ。

 「張に声を掛けたのは、私が経験しなかった営業や事業開発を経験していて、私の周囲で最も優秀な人間だったからです。その当時は具体的なアイデアはありませんでしたが、大学院の近くのカフェで彼に自分のアイデアを話していました」(野村氏)

 転機となったのは大学院でのアイデアソンだった。野村氏は美顔器マスクのアイデアをチームで発表し、優勝。その様子を見ていた大学院OBが、東京工業大学 准教授の沖野晃俊氏が研究している大気圧プラズマ技術が生かせるかもしれないとアドバイスした。

 野村氏はすぐさま沖野氏にコンタクトを取り、自らのアイデアを説明した。沖野氏は四半世紀にわたって大気圧プラズマの応用研究に携わり、さまざまな産業への応用に取り組んでいた。プラズマを物質の表面に照射すると付着していた汚れが気化、除去されるため、例えば、自動車部品の接着や塗装の前処理などにも活用されている。

 野村氏のアイデアを聞いた沖野氏は「美容分野にも活用できる可能性がある」と話す。かつて、プラズマは数千度の高温で生成されていたが、技術の進化とともに室温程度で生成できるようになり、殺菌やウイルス不活化、医療手術の止血などに使用する研究が進んでいた。プラズマを肌に照射して汚れを分子レベルで除去することで,皮膚への水の浸透性が高まることや、ニキビの原因となる雑菌にも効果があることが判明していたのだ。

 この技術を美容分野で製品化したいと考えた野村氏は、張氏とともに沖野研究室に足しげく通い、プラズマを皮膚に安全かつ効果的に照射する特許利用の独占契約交渉を進める。しかし、大企業も沖野氏の技術を放っておくわけがなく、複数の大手メーカーから沖野研究室に問い合わせが来ていたのだ。

 約半年に及ぶ交渉の末、DENSHINDOが沖野氏と独占契約を結べたのは、スタートアップならではのスピードと突破力だったという。

 DENSHINDOは大企業のように社内決裁がないスタートアップであり、意思決定のスピードは格段に速い。それに加えて、野村氏自ら是が非でも製品化したいという思いを沖野氏に直接訴えていた。結果的にその熱意が届き、特許の独占契約を締結できたのだった。

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