材料研究も先端技術研究所が注力する分野の1つだ。材料研究は試行錯誤の積み重ねであり、価値創出まで時間がかかることが多いが、実験や分析などリアルな工程とマテリアルズインフォマティクスやシミュレーションを組み合わせて活用することでスピードアップを図っている。材料の用途としては、モーターや燃料電池の他、人工光合成やバイオ燃料、バイオセンサーなどをターゲットとする。
5〜10年以内の製品化を目指して開発しているのが、鉄とニッケルを原料としたモーター用磁石だ。レアアースを含まないため、資源調達に関連したリスクや環境負荷を低減できる。電動車の駆動用モーターだけでなく、小型のモーターから成果を先出しすることも検討している。
通常、鉄とニッケルのランダム合金は磁石としての特性を持たないが、デンソーの開発技術では鉄とニッケルを原子レベルで配列を規則化する超格子構造によって耐熱性や耐環境性に優れた磁石となる。
鉄ニッケル超格子は、自然界では10億年以上かけて形成され、熱加工で製造するのは困難だという。「途中、苦戦して研究をやめようかと思った時期もあったが、社内の触媒の研究者からアンモニアのガスをうまく活用できるのではないかと意見をもらった」(先端技術研究所 所長の伊藤みほ氏)というきっかけを経て、窒化脱窒素法を開発、短時間で鉄ニッケル超格子を合成することに成功した。
材料メーカーと協力して磁石としての性能の検証を進めるとともに、製造プロセスの確立に取り組む。材料コストとしては鉄やニッケルはネオジムよりも安価だが、「製造プロセスが確立しなければ低コスト化が図れるとは言えない。コストと環境負荷を意識した製造プロセスを早期に確立したい」(伊藤氏)。
燃料電池向けの材料開発も進めている。燃料電池は液体状態の水を介して水素イオンを扱うため、気体の水蒸気にならないように水温を100℃以下に保つ必要がある。冷却機構を含めるとシステムが大型化するという課題があった。
デンソーでは、水素イオンを電導する膜材料を、金属と配位分子から成る配位高分子に置き換えた。配位分子の回転と振動を利用した水素イオン電導機構だ。水を介さないため100℃以上で動作することができ、ラボで実証した段階だ。実用化できれば、燃料電池のラジエーター小型化にも貢献する。
今後は、電導性能や耐久性のさらなる向上など、材料の特性を改良し続ける。2030年代の早期の実用化を目指す。
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