そこで、星氏らが取り入れたのが、バイオミメティクスだ。「生物は進化の過程で最適な骨格形状を得たと考えることができます。そこで、その骨格構造を模倣することにより、実際に製造できる構造を得られるのではないかと考えました」(星氏)。
まず検討したのが、鳥やコウモリ、プテラノドンなどの空を飛ぶ脊椎動物である。しかし、これらの動物の翼は、人の腕と同じく骨が1本または2本伸びている単純な構造で、BWB向きではなかった。続いて検討したのが、昆虫の羽だ。トンボの羽などは構造的に理想化された分割になっているが、薄過ぎるため、厚みのあるBWB機への適用は難しかった。
そこで発想を変えて、空だけでなく、海の中を見てみることにした。まず、形状が似ているということで目を付けたのが、エイの骨格だ。だが「エイの骨格は構造の視点から見ればとても興味深いものですが、エイはひれを大きく動かして推進力を得ています。航空機は翼がたわみ過ぎるとフラッターが発生します。形状は似ていますが、機能、力学の面からは一致していませんでした」(星氏)。
そんな中「上司と夜道を歩いている最中に、ふと思い付いたのがマンボウでした」と星氏は振り返る。まず、形状がよく似ていること、また調べてみると、機能も似ていることが分かったという。
形状については、飛行機の主翼はマンボウの背びれと尻びれ、後方のエレボン(エレベーター[昇降舵]とエルロン[補助翼]の機能を併せ持つ)はマンボウの舵びれに対応しており、客室などを含むカプセル状の空間構造については、マンボウも胴体に内臓を支えるカプセル状のゼラチン構造を持っていた(図2)。
機能についても、マンボウは背びれと尻びれを同時に左右に動かして前進するため、背びれと尻びれへの力のかかり方が、揚力を発生する主翼への力のかかり方と似ていた。また、マンボウの舵びれの方向転換機能は、航空機の後方の昇降機能と共通していた。なお、マンボウの胸びれは、昇降舵、抵抗板、スラスター(後進推力)の機能を有している。
また、力のかかり方も似ていた。最も荷重のかかる部分が、図3の青色の点線部分となる。この場所に、構造を重点的に配置することになるが、実際のマンボウにおいても主に荷重の流れに沿って骨格が発達しており、筋肉も同様だった。このように、BWB機体とマンボウの間には多くの類似点が見られたことから、星氏らはマンボウの骨格を参考にすることを決めた。
星氏らは、マンボウの上半分の骨格を用いて、荷重がかかっていると予測される、大きな骨や関節部分を取り出して特徴点を設定することにした。BWBとマンボウの形状は“ほぼ相似”であることから、客室や燃料タンクなどの空間部分を除いた箇所に特徴点を設定した。そして、Altairの構造解析ソフトウェア「OptiStruct」を用いてトポロジー最適化を行ったところ、明確な骨格構造を得ることに成功した(図4)。図5は、3Dプリンタによって60分の1スケールで出力した模型である。
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