さらに、同社は「樹脂材料は温度によって振る舞いが変わる」「レーザープリンタの内部は温度分布が複雑」といった課題や「機能と品質を両立させる高度な設計を実現したい」などの思いから、流体シミュレーションの進化と融合による「マルチドメイン化」にもチャレンジした。具体的には、エアダクト解析、ルーバー解析、電源基板の熱解析などは3Dで、中央断面解析は2Dで、全体のシステムを1Dでといったように、1D/2D/3Dの流体モデルを使い分けることで、効率的な開発の実現を目指した。
併せて、全体最適への挑戦として「モジュール丸ごと設計」にも取り組んだ。これは、“上流設計における機能と品質の両立”に主眼を置いたもので、それを実現するために、形状やパラメーターが簡単に変更できる環境、解析パッケージによる全体最適、設計視点での解析フロー構築など、部分最適から全体最適への進化を目指した。
講演では、CAEによる上流設計の成果として、同社レーザープリンタの定着器の技術開発事例を紹介。定着器の開発にモジュール丸ごと設計を適用した効果として、約75%の評価をシミュレーションで可能にし、全体最適を実現できたという。構想検討では、「APDL(Ansys Parametric Design Language)」を活用して複数の形状やパラメーターを迅速に検証できる環境を用意。併せて、構造解析と熱解析を同時計算できる仕組みも構築した。これらを活用することで、従来機種比で、印刷速度25%アップ、耐久性4倍アップ、開発工数削減を成し遂げることができた。
以上のようないくつかのチャレンジは、いずれも以下に示すサイクルの繰り返しが基本になっている。まず、経営課題を見つけるところからスタートし、材料理解/材料構成式と精密な状況把握につなげて、シミュレーション技術と組み合わせることで信頼性を獲得し、課題解決の方法をシステム化するとともに、その成果を報告することでリソースを獲得する。この一連のサイクルが、同社CAEがボトムアップ型であることを示しているといえる。
また、これらの取り組みなどで培ってきた計測技術/評価技術、材料技術、モデル化技術、シミュレーション技術などのCAE関連の技術要素は、バーチャルな数字の世界とリアルな物理現象の世界を橋渡しして、モノづくりの革新を支えることから、現在、同社における「CPS(Cyber Physical System)」を実現する基盤技術としての地位を確立しているという。
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