続く「デジタルがどのようにそれ自身を変えていくのか」では、デジタルテクノロジーそのものを変革し、それを加速する存在として、SaaS(Software as a Service)の重要性を説いた。ここでの話題の中心は、2019年11月に買収したSaaS型製品開発プラットフォーム「Onshape」、そして、Onshapeのテクノロジーをベースに構築したSaaSプラットフォーム「Atlas」である。
Onshapeの活用においては、インストールや設定が不要な点、常に最新バージョンが使用できる点、使用するハードウェアにとらわれず利用できる点といった一般的なSaaS利用の価値以外にも、強力なデータ管理機能やコラボレーション機能、分析・レポート機能などを有しており、コロナ禍、そしてニューノーマル時代に向けてさらなる普及拡大が見込まれるという。講演では、ロックダウンによって学校に通えず、CADの授業が受けられなくなった学生らがOnshapeを活用することで、自宅にいながら、皆とコラボレーションし、スムーズにCADによる設計を学ぶことができた事例を紹介した。ちなみに、「この1年間で100万人以上の学生がOnshapeに切り替えた」(へプルマン氏)とのことだ。そして、こうしたエピソードを踏まえ、へプルマン氏は「SaaSによって、(CADなどの)エンジニアリングアプリケーションは『Instagram』や『Twitter』『Slack』のようになった」と語る。
また、へプルマン氏は、SaaSが同社のデジタルポートフォリオの潜在的な力を高め、顧客企業のDXの実現をより強力に推進するとし、「PTCの製品ポートフォリオ全体でSaaS対応を進め、産業界におけるSaaSのリーダーを目指す」と述べた。この戦略の要となるのがAtlasだ。
Atlasは、Onshapeの技術をベースに、ワークフロー、コラボレーション、分析、セキュリティ、データ/タスク管理、ロールベースコントロールなどのコアとなるファウンデーションを備え、その上でアプリケーションを動作させるSaaSプラットフォームである。既に、3D CADのOnshapeやARソリューションの「Vuforia」、Creoの「ジェネレーティブデザインエクステンション」などがAtlasプラットフォームに対応しており、将来的には、WindchillやThingWorxなどもAtlasを基盤とするSaaS対応がなされる計画である(Saas型PLMの「Arena」の統合も進めていく)。
さらに、3D CADであるCreoとOnshapeのすみ分け、CreoのSaaS対応について、へプルマン氏は「成熟度が高くハイエンドなCreoと新しいピュアSaaS型のOnshapeは、ガソリンエンジン車と電気自動車(EV)のようなもので、どちらを使うかはユーザーに委ねられる。ただ傾向としては大手企業は高機能なCreoを選択し、中小企業やスタートアップなどはOnshapeを採用してSaaSのアドバンテージをフルに享受したいと考えている。PTCとしては、今後も主要製品(CreoやWindchill、ThingWorxなど)をオンプレミス型で提供し続けるとともに、SaaS型での製品展開を進めていく方針だ。また、CreoユーザーにSaaSの価値を提供するため、将来的にはAtlasを基盤とするSaaS型Creoの開発も予定している」と説明する。
最後、講演のまとめにもなった「PTCがどのように自らを変えていくのか」では、IoTやARへの投資、サブスクリプションモデルへの移行などを経て、成長を続けてきたこれまでの歩みを振り返りつつ、顧客企業、パートナー、投資家などに対する感謝が述べられた。また、へプルマン氏はPTC自身が「創造する力(Power To Create)」というスローガンの下、自らの変革にも取り組んでいくことを約束した。そして、フィジカルを変革するデジタルの力は、製品ライフサイクル全体でフルに発揮されるまでには至っていないとし、「PTCのエコシステムを構成する顧客企業やパートナーとのDXの旅はこれからも続き、そのペースはさらに加速していく」と締めくくった。
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