水素エンジンマシンのベースはカローラスポーツを選択した。モータースポーツでの使用を念頭に開発されたGRヤリスの1・6リットル直3ターボエンジン「G16E-GTS」を水素仕様にして搭載している。外見上、ガソリンエンジンとの区別はつかないが、燃料噴射装置はデンソー製のインジェクターを水素用に改良して採用。点火プラグは熱価が高いものを装着しているという。
水素を貯蔵する高圧水素タンクや、水素をエンジンに送るための補機類などは、燃料電池車(FCV)「ミライ」のものを流用した。水素タンクはミライのタンク2本、直径は同じで長さの異なるタンクを2本、合計4本のタンクを後席に設置している。ベース車両をカローラスポーツにしたのは、水素タンクの積載スペースを確保するためでもある。
安全性を確保する車両設計も随所に見ることができる。水素タンクはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製キャリアで固定し、前席と後席はカーボン製の壁で仕切る。また、ルーフには空気取り入れ口(エアインレット)と出口(エアアウトレット)を設け、万が一の水素漏れに備え車内換気を徹底する工夫を施した。
水素を充填する「給水素」はサーキット設備の都合上、ピットでの作業ができない。そのため24時間レースでは2基の移動式水素ステーションを設置した。2基設置したのはマシンへの充填効率を高めるためだという。ディスペンサー側のタンク圧力は充填が進むにつれて低下する。車両側タンクとの圧力差が少なくなることによる充填効率の低下を防ぐため、充填作業を2基で行うことで作業時間の短縮につなげている。1回の充填時間は約7分。24時間レースのうち走行時間は11時間54分、ピット時間は12時間6分で、このうち水素充填時間は4時間5分だった。充填回数は実に35回にも及んだ。
実用化に向けて開発中の水素エンジンマシンがモータースポーツの現場に登場できたのは、偉大なる草レースとして多彩な車両参加を受け入れるS耐の高い受容性があったからに他ならない。今やS耐は、国際車両規格のGTマシンから市販車ベースのレースマシン、そして自動車メーカーの開発車両までが混走する一大耐久レースに成長した。特に24時間レースを見ていると、その雰囲気は世界一過酷な耐久レースといわれる「ニュルブルクリンク24時間レース」に通ずるものも感じる。偉大なる草レースとして存在感は着実に高まりを見せている。
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