ST-1〜5クラスについては、車両を改造するに当たり、純正部品や一般市販品を採用することが技術規則によって規定されていることも特徴だ。例えば、フロントバンパーやボンネット、フロントフェンダー、サイドスカード、リアウイングといった空力部品(エアロパーツ)はレースマシンを速く走らせるために欠かせない部品の1つだが、レースでの使用が認められるのは公道走行が許される市販カーアクセサリー部品(道路運送車両法の保安基準に適合した空気流調整用部品)となっている。材質や製造方法は自由だが、著しく高価な部品は一般市販品であってもレースでは使用できない。一般消費者が常識的範囲で平等に購入可能な商品であることなどを規定している。
ブレーキやサスペンション、駆動系部品、車体補強部品といったパーツについては、アフターパーツの業界団体が認定する部品の採用が定められている。レース部品の良しあしはドライバーの生命にも直結するだけに、安全と品質、そして性能を高いレベルで担保することが狙いだ。認定基準はアフターパーツメーカーなどで構成する業界団体「日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会(NAPAC)」内のASEA(オートスポーツ・アンド・スペシャル・エクイップメント・アソシエーション)事業部が作成。ASEA基準認定部品として認定された部品が使用できるようになる。
S耐は市販されているチューニングパーツを使って改造されたマシンで戦う。それだけにスーパーGTやスーパーフォーミュラとは異なり、クルマ好きにとってはもっと身近に感じられるレースカテゴリーといえるだろう。
草レースの国内最高峰として根強い人気を誇るS耐。スーパーGTのように自動車メーカーがワークス参戦することはないが、今シーズンから新たに「ST-Q」というクラスが新設された。S耐を運営するスーパー耐久機構(STO)が参加を認めた自動車メーカーの開発車両や、各クラスに該当しない車両が出場できるクラスだ。今シーズンはトヨタ自動車 社長の豊田章男氏がオーナーを務めるルーキーレーシングがGRスープラで参戦している。
5月23日から24日にかけて行われた第3戦「NAPAC富士SUPER TEC24時間レース」には、カローラスポーツをベースにした水素エンジンマシン「ORCルーキーカローラH2コンセプト」が参戦した。水素だけを燃料にしたエンジン車でレースに出場するのは世界初で、豊田氏もレーシングドライバー「モリゾウ」としてステアリングを握った。
トヨタが開発途上の水素エンジンでS耐に参戦したのは、過酷な耐久レースで水素関連技術を鍛え上げるためだ。ガソリンの代わりに水素を燃やす水素エンジンは、「夢の内燃機関」ともいわれる。微量なエンジンオイルの燃焼に伴う窒素酸化物(NOx)を除いて、二酸化炭素(CO2)や有害物質を発生しないためだ。トヨタは水素を電気に変える燃料電池ととも水素エンジンの開発を進めており、得意とするハイブリッドシステムも含めて環境技術として取り組んでいる。
日本政府は2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて、ガソリンエンジン車を禁止するような戦略を掲げている。こうした状況に対し、日本自動車工業会の会長を務める豊田氏は、2021年4月末に行ったオンライン会見で「ガソリン車を禁止するような政策は、技術の選択肢を狭め日本の強みを失うことになりかねない」と強調し、より幅広い視野でさまざまな技術を活用する必要があることを訴えている。
今回、トヨタが水素エンジンでS耐に参戦したのは、内燃機関の活用を排除せず、EV(電気自動車)一辺倒となりがちな議論に警鐘を鳴らす意味も込められている。モリゾウこと豊田氏はレース終了後に、「カーボンニュートラルの実現に向けて選択肢を広げるための第一歩を示すことができた」と強調している。
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