例として、高電圧および低電圧バッテリーモジュールの管理用の柔軟なデータ収集システムであるマキシムインテグレーテッドの「MAX17852」を見てみましょう。このシステムは、14のセル電圧ノード(または7つのグランド基準の高電圧ノード)、1つの電流および完全冗長化測定エンジンを伴う4つの温度またはシステム電圧の測定値の組み合わせを、263μsで測定することができます。また、高速ADC SAR(逐次比較型A-Dコンバーター)測定エンジンのみを使って全入力を156μsでポーリングすることもできます。
この高集積バッテリーセンサーは、ノイズ耐性を最大化するように設計された高速差動UARTバスを内蔵し、堅牢なデイジーチェーン接続シリアル通信を実現します。最大32のデバイスをデイジーチェーン接続可能です。デイジーチェーンを1つにすることによって、ジャンクションボックスとバッテリー監視回路の測定値の間の時間的な整合が可能になります。結果として、セル電圧、バスバー測定値、パック電圧、パック電流、接触器電圧および温度の測定値が10μs以内で整合されます。
このシステムはマキシムのバッテリーマネジメントUARTまたはSPIプロトコルを使用して堅牢な通信を実現し、外部デバイス制御用のI2Cマスターインタフェースに対応します。このシステムは内部診断の縮小機能セットおよびエンベデッド通信とハードウェアアラートインタフェースの両方を介した迅速なアラート通信に対応するように最適化され、自動車向け機能安全規格ISO 26262で最も厳しい安全要求レベルであるASIL DおよびFMEAの要件に適合しています。
国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、EVの標準レギュレーション(TP-305-01)の測定に対して、推進用バッテリーの負(正)極側と自動車のシャシーの間の抵抗値を、SAE 1766に沿って自動車の公称動作電圧(単位:V)の約500倍(単位:Ω)、すなわち400Vの場合で200kΩと規定しています。そのため、シャシーとバッテリー正(負)極の間の絶縁抵抗RLEAK−(RLEAK+)を図4に示す回路によって検出し、データ収集ICのAUX端子に電圧として伝達することができます。
図4の回路に基づくと、RLEAK−の場合のVAUXの式は次のようになります。
VAUX=α×VBATT(R+RLEAK−)/(R+2RLEAK−)
ここから、次式が得られます。
RLEAK−=R(VAUX−α×VBATT)/(α×VBATT−2VAUX)
すなわち、
α=RSENSE/(R+RSENSE)
下図のグラフはRLEAK+とRLEAK−の両方の曲線を示しており、200kΩのRLEAK−の絶縁抵抗によって2.18Vの電圧検出値VAUXが生じ、200kΩのRLEAK+の絶縁抵抗によって1.08Vの電圧検出値が生じることが分かります。
EVは、高電圧および高電流を扱う必要があります。安全な動作を確保するためには、電気的接続の接点抵抗、電流および高電圧ボードと低電圧ボード間の絶縁抵抗を監視する必要があります。ここでは標準的なEVバッテリーおよびジャンクションボックスシステムの構造について、その複雑性に注目して概説しました。
引き続き、低ノイズで、コスト効率に優れた、容量性絶縁デイジーチェーン通信アーキテクチャによってジャンクションボックス専用マイクロプロセッサを不要にする、新たな独自のデータ収集ICを紹介しました。このデバイスはジャンクションボックスとセル電圧測定の間の時間的な整合も実現します。電流検出を内蔵しているためホール効果電流センサーは不要です。高速SAR ADCアーキテクチャによって複数の測定を最小限の時間で可能にします。
マキシムのオートモーティブ製品事業部ビジネスマネジメント担当エグゼクティブディレクター。現在は主に電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車向けバッテリーマネジメントとパワーマネジメントに注力しています。電気工学の理学士号を取得しています。
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