第2部となる今回は、消費電力についてと、CANアプリケーションに電圧レールが複数ある場合の設計方法に注目します。
「CANの設計課題への対処」の第1部では、CAN(Controller Area Network)バスの設計と終端処理に関する詳細や課題について述べました。第2部となる今回は、消費電力と、CANアプリケーションに電圧レールが複数ある場合の設計方法について注目します。
CANトランシーバーの消費電力の計算は思ったほど単純ではなく、トランシーバー関連の電圧レールが複数追加されると、さらに複雑さが増します。また、さまざまな特徴のCANトランシーバーがある中で、トランシーバーの選択を誤ったり、システムに必要のない電圧レールを追加してしまったりしているかもしれません。
動作状態のCANトランシーバーの消費電力は、どのように計算しますか?
CANトランシーバーの消費電力は、いろいろな面から捉えられます。図1に、デバイスがリセッシブ状態のときのデバイスへの電力供給に必要な静止電流の部分を青の破線で、CANバスをドミナントに駆動するのに必要な電流の部分を赤の破線で示します。
CANトランシーバーの消費電力を正確に見極めるには、トランシーバーが各バス状態のときの時間の長さに加えて、次のようなパラメータを把握・推定・測定することが必要です。
この計算において、リセッシブ/ドミナント状態でのトランシーバーの消費電流と、バスがリセッシブ/ドミナント状態に置かれている時間については、説明は不要でしょう。この2つの状態の消費電流が大きく異なることと、通信中のCANバス状態が常に変化することから、どれくらいの時間、バスがリセッシブ状態またはドミナント状態にあるかが、トランシーバーの消費電力を大きく左右します。
VCC電源から消費される電力の一部が終端抵抗を経由するという理由から、ドミナント状態での差動出力電圧が必要です。この抵抗による電圧降下を把握することは、この抵抗を通して消費される電流量を判断するのに役立ちます。
バスがリセッシブ状態のときは、抵抗による大幅な電圧降下がない(もしくはまったく電圧降下がない)はずなので、リセッシブ状態での差動出力電圧は必要ありません。また、CANHとCANLは、まったく同じ電圧ではないとしても、互いの差は数十mV以内になるはずです。抵抗を通る電流はなく、トランシーバーはバスに大量の電力を供給しません。
これら全ての変数を理解したところで、式1に消費電力の計算式を示します。
式1
P = [(1-D)*IREC*VCC] + [D*IDOM*(VCC-VOD)]
式2は、VIOピン付きトランシーバーの場合の計算式です。
式2
P = [(1-D)*IREC*VCC] + [D*IDOM*(VCC-VOD)] + VIO*IIO
ここで、Pは電力、Dはバスがドミナント状態である時間の比率、VCCはトランシーバーの電源電圧、IRECはリセッシブ状態のときのVCCからの消費電流、IDOMはドミナント状態のときのVCCからの消費電流、VODはドミナント状態のバスの差動出力電圧、VIOはデバイスのIO電圧(VIOピンがある場合)、IIOはデバイスのI/O電流です。
では、CAN-FD(CAN Flexible Data Rate)トランシーバーである「TCAN1042」を例に取り、このデバイスの状態が50%の時間でドミナント、50%でリセッシブだとします。VCC=5V、IREC=1.5mA、IDOM=40mA、VOD=2.25V、D=0.5とし、これらの値を式1に当てはめた結果は以下になります。
P = [(1-0.5)*1.5*5] + [(0.5)*40*(5-2.25)] = 3.75 mW + 55 mW = 58.75 mW
このように、電力計算は必ずしも直観的にできる作業ではありませんが、正しいパラメータを使えば単純化できることがお分かりいただけたでしょう。
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