ニューノーマル時代のやり方は、従来の方法とは違うというのはある意味では当たり前のことです。急変する外部状況に対応できるようにするためには、以前のような「平時」とは異なる方法が必要です。ただ、多くの日本企業は失敗に対する恐れから、より慎重に進める傾向もあります。
そこで、ここでは3つのアプローチをご紹介します。その1つ目が「スモールスタート」です。
大型のシステムを一気に導入するためには、緻密な計画、準備が必要になります。また、導入作業も大規模になるため、管理負荷も非常に高いものとなります。しかし、ニューノーマル時代では環境変化が激しく、導入途中で状況が変わることも考えられます。そこで、まずはスモールスタートでPoC(Proof Of Concept:概念実証)を行い、ソリューションの内容を検証した上で、少しずつ拡張する方法が望ましいといえます。これで、大きなリスクを回避することができます。
特にデジタルトランスフォーメーション(DX)やAI(人工知能)などの最新技術に関係するソリューションはまだ新しく、従来の伝統的なソリューションと比較すると実績もそれほど多くはありません。そもそも、DXの課題は革新的なものが多いので、事例や実績がそのまま適用できないことも多いため、まずスモールスケールで試し、PoCを行うアプローチが合っているのです。
多くのDXプロジェクトでは、期間は長くコストもかかります。だからこそ、リスクや失敗に対する懸念点も考慮する必要があります。また、短いサイクルで新しい技術が登場し、プロジェクトがスタートしたときに採用した技術が、プロジェクトが完了するころにはもう古い技術になっている場合もあります。コロナ禍が始まった2020年春と1年後の今を比べると、変化のスピードを実感できると思います。
例えば、最近筆者が携わった米国のある企業では、AI技術を活用した在庫管理ソリューションの導入を進めました。今回のコロナ禍のようなパンデミックや大規模な災害などが発生した時、企業にとって重要なことは「キャッシュフローの維持」と「運転資金の管理」の2つです。倉庫に在庫が積み上がっていけば必然的にキャッシュは減り、運転資金も回らなくなるからです。このような明確な課題に対しても、高価なソリューションを一気に導入するのではなく、最初は必ずPoCを行うアプローチを採用しています。
PoC期間は90日で、最小限の範囲で検証を進めるとともに、PoCが終わる時点でどのくらいの定量的効果が出るのかを可視化します。どのくらい在庫を減らすことができるか、それによってどのくらいのコスト削減が実現するかの確認を行います。その投資対効果が明確に算出できなければ、次のフェーズには進みません。90日間と決められたPoCは、費用も限定的であり、リスクも最小限です。PoC結果が満足できない場合には、それ以降のフェーズに進まなくてもよいのです。
コロナ禍からの復活には、誰が見てもデジタル化が必須になるのは確かでしょう。そのデジタル技術を適用するためには、従来のアプローチではなく、やり方を変える必要があります。20世紀最大の物理学者、そして現代物理学の父とも呼ばれているアルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)氏は「われわれの直面する重要な問題は、その問題を作ったときと同じ考えレベルでは解決することはできない」と語りました。ニューノーマル時代におけるデジタル化のアプローチは、これまでと異なるアプローチにした方が正しいのではないでしょうか。まずは、スモールスタートをすること、そしてPoCを通してソリューションの機能を検証し、期待効果を定量化してから次のフェーズに進むことによって、リスクも最小化しながら実現することができるはずです。
残りの2つのアプローチについては次回にお伝えしたいと思います。
島田祥元(しまだ あきもと)
NTTデータ グローバルソリューションズ
ビジネスイノベーション推進部 世界戦略室 室長
欧米の先進国での経験を生かし、先端トレンドソリューションを日本で活用可能な視点で実践的に適応、支援を進めている。米国(7年)、英国(2年)でコンサルタントとして活動。外資系コンサルティング企業を経て、現職。米国、欧州、アジア、南米など多数の地域で、プログラムマネジメント、海外システム導入、オフショアチームマネジメント、グローバルAMO、買収フィージビリティスタディー・買収後業務・システムインテグレーション、ソフトウェアソリューション製品開発など、幅広い案件を手掛ける。
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